睡眠と酸素の関係
睡眠は日々のパフォーマンスや健康を支えるため欠かせないものです。
睡眠にはさまざまな役割があり、質のよい睡眠が不足すると、多くの健康リスクを引き起こす可能性があります。
本記事では、睡眠の重要性と睡眠のメカニズム、質のよい睡眠をとるための対策についてご紹介します。
睡眠の重要性
睡眠は単なる休息ではなく、脳や身体を休めて疲労を回復させ、エネルギーを補充するために欠くことのできない休養活動です。また、良質な睡眠は、脳や心血管、成長ホルモンの分泌(身体の成長)、記憶の定着、免疫力、認知機能、代謝、精神的な健康などに大きなかかわりがあります。

厚生労働省の「睡眠ガイド2023」によると、推奨される睡眠時間は年齢によって異なり、15歳前後で約8時間、25歳で約7時間、45歳で約6.5時間、65歳で約6時間とされています。年齢とともに睡眠時間が短縮するのは、消費エネルギーや体内時計の変化が影響していると考えられています。

しかし、現代の生活リズムやストレスによって、質の良い睡眠が得られない人も多くいます。睡眠が不足すると、日中のパフォーマンスに影響を及ぼし、注意力、判断力の低下、学業成績不振にも影響を及ぼします。また、労働災害や交通事故など、眠気や疲労が原因の事故やケガのリスクにもつながるため、注意が必要です。
睡眠のメカニズム
ヒトの睡眠にはノンレム睡眠(深い睡眠。眠りの深さにより4段階ある)、レム睡眠(浅い睡眠。眼球が急速に動き、脳は活発に活動し夢を見る)があり、通常ノンレム睡眠から始まって、約90分~120分の周期で交互に繰り返されます。朝方になるにつれ、レム睡眠の持続が長くなり、通常、レム睡眠は一夜の睡眠全体の約20%を占めます。

寝始めてから3時間は、もっとも深い睡眠が出現し、成長ホルモンが多く分泌するため、心身の修復や疲労回復にとって重要な時間帯です。この時間にしっかり寝ることが大切です。
睡眠は量だけでなく質も重要。私たちが睡眠できる時間はおよそ決まっています。決められた時間枠のなかでできるだけ質の高い睡眠をとるようにしましょう。
睡眠と酸素の関係
睡眠中も、身体の各臓器や筋肉は働き続けており、免疫やホルモンも自動的に機能しています。酸素は細胞の修復や成長に不可欠であり、睡眠中、意識しなくても呼吸し続けています。

通常、ヒトの呼吸は自然に行なわれているように思えますが、実際は、脳幹にある呼吸中枢(延髄)や肺の収縮・拡張運動を担う呼吸筋、それをコントロールする神経細胞であるニューロンなどが複雑に連携しています。
覚醒しているときは、「息を大きく吸う」「深呼吸をする」など、意識的に呼吸をコントロールすることができますが、睡眠中は意識が失われている状態のため、身体や脳にあるセンサーが血液中の酸素濃度や二酸化炭素濃度、血圧などのシグナルを受け取り、それを脳に伝え、その情報をもとに自律的に呼吸が調整されているのです。
例えば、血液中の酸素が減り、二酸化炭素量が上昇すると、延髄が「酸素を増やせ」と指令を出し、呼吸回数を増やすのです。
睡眠時の酸素の重要性:睡眠時無呼吸症候群
睡眠中、特に深い睡眠状態であるノンレム睡眠中は、呼吸や筋活動、体温、心拍などの、身体全体の生理活動が低下して休息状態になり、酸素消費量が減少します。
一方、浅い睡眠状態であるレム睡眠中は脳の活動が活発になり、酸素消費量が増えて、呼吸は不安定になります。健康な人の覚醒時の血中酸素濃度は96〜99%で呼吸は規則的ですが、睡眠中は若干低酸素になる傾向があります。

睡眠中に酸素供給が不足すると、睡眠が浅くなり質が低下することがわかっています。睡眠時の酸素を低下させる原因の1つが睡眠時無呼吸症候群(SAS)です。睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠時に気道が閉塞するために、何度も呼吸が止まったり、浅くなったりしては再開することを繰り返します。

呼吸が止まると、自分では気づかないうちに一瞬、目が覚めるため、睡眠の質や量が低下します。また、身体は低酸素状態になるため、酸素を補おうと、心臓の働きが高まって負荷がかかるので、放置すると健康リスクが高まる他、日中に眠くなって集中力が低下し、居眠り運転などにつながることが、社会問題となっています。
睡眠の質を上げるには?
人生の3分の1を費やす睡眠。その質を向上させるためには、日中の活動と夜間のメリハリをつけることが重要です。生活習慣の改善をはじめ、様々な対策を取り入れることで、より良い睡眠が期待できます。

毎朝、一定の時間に起きて朝日を浴びることで、体内時計がリセットされ、睡眠と覚醒のリズムが整います。日中に光を多く浴びると、夜間に、睡眠のリズムを整えるメラトニンというホルモンの分泌量が増加して、入眠が促進されます。日中はよく活動し、夕食は就寝の2~3時間以上前に済ませて、寝る1時間くらい前からリラックスして過ごすことがおすすめです。

朝食を抜くと、1日のリズムを司る「体内時計」が後退し、寝つきの悪化を介し、睡眠不足、睡眠休養感の低下につながることが明らかになっています。主食・主菜・副菜をバランスよくとり、さまざまな食品を取り入れて、エネルギーをチャージしましょう。また、就寝前に夜食をとることや、大量のアルコール摂取、夕方以降のカフェイン摂取も睡眠の妨げになるため控えましょう。

睡眠中は低い照度の光でも睡眠の質が低下します。寝室にスマホやタブレット端末を持ち込まず、できるだけ暗くして寝るようにしましょう。また、音については、人によって感じ方が異なりますが、研究によると、騒音が睡眠効率の低下や寝つきの悪さ、中途覚醒に関連があるとの報告もあるため、静かな睡眠環境の確保がのぞましいでしょう。

寝室は暑すぎず、寒すぎない環境に整えることが大切です。夏は寝室の温度が上昇するときに睡眠の質が低下するため、エアコンを使って涼しく、冬は寝具を使って、暖かくして眠るようにしましょう。

日中の身体活動量・強度は、眠りの必要量や質にも影響します。ウォーキングやジョギングなど、負担が少なく長続きする有酸素運動や軽めの筋力トレーニングがおすすめです。就寝の2~3時間くらい前に運動をすると、身体の深部の体温が上昇した後、全身に血液が循環し深部の体温が低下するため、眠りやすくなります。

就寝前に手足の血流が増加して体温が外に放出され、深部の体温が下がり始めると、入眠しやすくなります。そのため、就寝1~2時間前に入浴し、身体を温めてから就寝すると寝つきが良くなります。極端に湯温が高いと、交感神経が活発になり、かえって入眠を妨げてしまうため、40度ほどのお湯に15~20分程度つかるとよいでしょう。
睡眠とかかわりのある栄養成分
睡眠の質を上げるためには、生活習慣の見直しに加えて、睡眠の質を向上させる栄養成分を意識した食事も有効です。ただし、特定の食品ばかりを偏って摂取するのではなく、さまざまな食材を組み合わせ、バランスの良い食事を心がけましょう。
神経伝達物質として知られ、交感神経を抑えて副交感神経を優位にして入眠を助ける働きが報告されています。
体内で合成できない必須アミノ酸の一種で、脳内で「セロトニン」の材料となります。セロトニンは睡眠や体内時計を調節するホルモンである「メラトニン」に変換され、睡眠の質を高めることが期待できます。
アミノ酸の一種で、中枢神経系に作用し、深部体温を下げて寝つきを助けると考えられています。

ポリフェノールの一種。近年、ケンフェロールには、身体活動レベルの向上と睡眠の質の向上に貢献する可能性が示唆されています。

質の高い睡眠を
睡眠は心身の健康に不可欠な休養活動であり、酸素や生活習慣が深く関わっています。適切な睡眠時間を確保し、質の高い睡眠を目指すことで、日々の生活の質を向上させることができます。

近年では、睡眠障害の大きな原因のひとつに「メンタルストレス」があることがわかってきています。ストレスによって交感神経が優位になり、心身が興奮状態のままでは、なかなか眠りにつくことができません。そのため、心と身体をリラックスさせる“リラクゼーション”の時間を意識的に持つことが大切です。就寝前に照明を落とし、ゆったりと音楽を聴いたり、呼吸法や軽いストレッチを行うことなどは、副交感神経を優位にし、自然な入眠をサポートしてくれます。また、瞑想やマインドフルネス、アロマテラピーといった方法も、ストレスの軽減や睡眠の質の向上に効果があるとされています。生活習慣や環境を整え、より良い睡眠を実現しましょう。
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