老化と酸素
老化の克服は古来、人類にとって重要なテーマでした。そのメカニズムが近年、多くの研究者によって明らかにされつつあり、そのひとつとして酸素も大きな役割を果たしています。今回は、老化と酸素の関係を明らかにしていきます。
老化はなぜ起こる?
老化はなぜ起こるのでしょうか。私たちの体は、数十兆個とされる細胞からできています。その細胞が劣化したり、異常が生じることで、臓器や組織の機能が低下することが老化を招きます。この細胞の変化の大きな原因となるのが「酸化」や「炎症」です。
酸化と老化
私たちのあらゆる生命活動には、細胞のミトコンドリア内で作られるATPエネルギーが使われます。このエネルギー生産の過程で「活性酸素」という副産物が生まれます。この活性酸素には、人にとって“良い働き”と“悪い働き”の2面があります。
良い働きとは、体を守る「免疫細胞」の武器となることです。体内に細菌やウイルスなどの敵が侵入すると、免疫細胞が活性酸素を使って無力化し、病気を阻止します。また、活性酸素は、細胞同士の情報伝達にも働いています。活性酸素は適切な量なら、体にとって有益な存在です。
しかし、過剰に増えると、自分自身の正常な細胞まで傷つけ、老化につながる存在となります。増えすぎた活性酸素が、細胞にダメージを与えることを「酸化」と呼びます。鉄が錆びるのも酸化によるものなので、体内の酸化ダメージを「体のサビ」などと言います。活性酸素によって酸化が進むと、鉄が錆びでボロボロになるように、細胞が劣化し老化につながっていくのです。
活性酸素は、加齢により増えるとされています。しかし、紫外線や排気ガスなどの環境要因、食品添加物、タバコ、アルコールなどの飲食物や嗜好品、ストレス、化学物質、激しい運動なども活性酸素を過剰に増やす原因となります。
炎症と老化
老化を進める大きな要因として今、クローズアップされているのが、体内で起こる「炎症」です。そもそも炎症は、細菌やウイルスなどの外敵と戦ったり、物理的な刺激に対して起こる、体を守るための反応です。たとえば、傷口やぶつかったところが赤く腫れて痛む、といった状態のことで「赤み・熱・腫れ・痛み」の4つの特徴的な症状があります。風邪で熱が出るのも炎症のひとつです。
本来、こうした「急性炎症」は一過性のもので、患部が治ると消滅します。
一方、老化を進めるとして問題になっているのが「慢性炎症」です。炎症が回復せず、火事のボヤのような軽い炎症がいつまでも続き、周囲の細胞にダメージを与えます。さらに血流から全身に炎症を広げてしまいます。慢性炎症は主に体内で起こっているため気づきにくく、老化を進めてしまいます。 この慢性炎症は病気や不調の多くに関わっているとも言われており、乱れた食事などの生活習慣、運動不足、ストレス、加齢といった要因で長く続き、じわじわと私たちを老化させます。
「酸化」と「炎症」は
お互いを悪化させる
「炎症」と「酸化」は、2つがワンセットで生じる関係にあります。
酸化によってダメージを受けた細胞は、体にとって不要なものです。そこで、この細胞を取り除くために炎症が発生します。
また、炎症が起こると、異物を排除するための武器として活性酸素が作られます。これが酸化につながることにも。
活性酸素と炎症は、体を守るために働きますが、過剰になると互いに悪影響を与えて増幅しあう関係にあります。
酸化(活性酸素)や炎症による
体の変化
酸化や炎症による体の変化=老化には、以下のようなものがあります。
紫外線によって発生する活性酸素が肌にダメージを与えます。これを「光老化」と呼び、肌老化への影響の8割を占めるとも言われます。コラーゲンなど、皮膚内部の物質がダメージを受けることで、シミ・シワ・たるみ・くすみなど肌老化が進みます。
また、慢性炎症でもコラーゲンやエラスチンなど肌を支える成分が破壊され、シワやたるみの原因となり、肌老化が進みます。
高血圧などにより血管の内側の細胞が傷つくと「LDLコレステロール」が入り込み、活性酸素によって酸化されます。すると、免疫システムがこれを異物と判断し、炎症反応を引き起こします。炎症細胞であるマクロファージが、酸化したLDLコレステロールを飲み込んで処理しますが、これが血管壁に蓄積されて動脈硬化が進みます。 血管は硬く、もろく老化していき、心筋梗塞や脳梗塞など命に関わる病気につながります。
脳は活性酸素が生じやすく、害を受けやすい部位です。脳の細胞が酸化されると、脳神経細胞が失われるなどして、脳機能の低下につながります。また、認知症の中でも多いアルツハイマー病は、脳内に「アミロイド-β」という物質が蓄積することが原因とされてきましたが、実はアミロイド-βの蓄積による炎症が原因という説が有力になっています。
ミトコンドリアで発生する活性酸素は、ミトコンドリア自身も傷つけます。傷ついたミトコンドリアからはさらに多くの活性酸素が発生するという悪循環に。また、エネルギー生成の効率が低下し、疲れやすさなどにつながります。
老化と酸素との関係
私たちを老化させる「酸化」と「炎症」について説明してきましたが、ここで、老化と酸素の関係を改めてご紹介していきます。
活性酸素と老化
先にお伝えしたように“活性化された酸素”である活性酸素は、適正な量なら体を守るものになります。つまり、体の老化防止に働いてくれるのです。しかし、活性化が過剰になると、自身を傷つける存在にもなります。
酸素供給不足(低酸素状態)と
慢性炎症
東北大学グループの研究※1で、慢性的な低酸素では、炎症が悪化するという研究結果が得られました。慢性的な低酸素状態だと、炎症の抑制に必要な物質が生産されなくなることで、炎症が続いてしまうとしています。老化につながる炎症の悪化を防ぐには、酸素が重要であることが示唆されました。
ただし、過剰な酸素は活性酸素の発生につながるなど、病気を引き起こす恐れもあります。たとえば激しい運動は、呼吸量を増やして酸素量が多くなり、活性酸素を増やします。適切な酸素量を保つ生活習慣が重要です。
酸素利用効率の低下と老化
酸素は、全身の細胞にあるミトコンドリアの中で、食事から摂った栄養素と共に利用され、エネルギーが作られ、ヒトの体を動かす源となります。
しかし、加齢や運動不足、活性酸素などによりミトコンドリアの機能が低下すると、酸素を利用する力も低下し、エネルギーも産生されにくくなります。すると、細胞の修復・再生が滞って肌も筋肉も衰え、体の老化が進むことに。
酸素の十分な供給はもちろん、ミトコンドリアの機能を維持し、酸素を効率的に利用することで、エネルギー産生が保たれ、日々の健康につながります。
酸素飽和度(SpO2)と老化の関係
酸素は、血流にのって全身に運ばれます。このとき酸素だけでは行動できないので、赤血球中のヘモグロビンとくっついて、血流にのります。酸素飽和度(SpO2)は、血液中のヘモグロビンの何パーセントが酸素と結合しているかを示した数値で、96~99%が正常値とされます。
新型コロナウイルスにかかったとき、この酸素飽和度を、指先をつまむ「パルスオキシメーター」で計測をした方も多いのでは。
加齢と共に肺活量が減少すると、必要な酸素を十分に取り込めなくなり、酸素飽和度が低下していきます。すると、疲れやすさや倦怠感、息切れ、頭痛などにつながると共に、血液が暗い赤色に変化することで肌色が暗く、くすんで見えるため、老けて見える要因にも。また、酸素不足でエネルギーが十分に作れないと、代謝の低下により老化が進みます。
老化を防ぐための生活習慣
同じ年齢でも、老けて見える人と若く見える人がいるのは、日々の生活習慣の違いが大きく影響します。毎日の過ごし方を変えることで、若々しい心身を保つことにつながります。
睡眠中は「成長ホルモン」が分泌され、傷ついた細胞の修復が行われます。成長ホルモンは“アンチエイジングホルモン”とも言われ、老化防止に深い関わりがあります。また、睡眠を促すホルモンの「メラトニン」や成長ホルモンが不足すると、体内に活性酸素が蓄積されるとも。睡眠習慣を整えて、質の良い睡眠を十分とることが大切です。
適度な運動を続けると、炎症の抑制にも働き、老化の進行を遅らせることがわかっています。体に酸素を取り込む能力「最大酸素摂取量」も、加齢により低下しますが、運動の継続が維持につながります。運動にはいくつか種類がありますが、適度な運動はいずれも老化防止に有効です。
・有酸素運動…ミトコンドリアの老化を防ぎ、酸素の利用能力を向上させる
・筋力トレーニング…成長ホルモンの分泌を促す
・ストレッチ…血流を良くする作用
ただし激しい運動は、逆に体を傷つける活性酸素を増やし、老化につながるとされているので注意が必要です。
紫外線は活性酸素を作り出すので、日焼け止めを塗ったり、日傘や帽子で防ぎましょう。
また、UVカット機能のあるサングラスを活用して。目から紫外線が入ると、体が紫外線から体を守るように反応して、肌を黒くする色素のメラニンを生成します。これが代謝の衰えで正常に排出されないと、シミになってしまうので要注意です。
たばこの煙に含まれる5,000種類以上の化学物質が、活性酸素を大量に発生させるとされています。また、体への害が少ないと考えられている加熱式たばこでも、活性酸素が発生することがわかってきました。煙により気管支に炎症も発生します。
一方、多量のお酒を習慣的に飲み続けると、胃や肝臓などの消化器系だけでなく、心臓や脳など全身の臓器に障害が起こる可能性があります。また、高血圧や脂質異常症では、少量でも発症リスクを上げてしまいます。
純アルコール量で1日あたり20g程度(ビール中びん1本や焼酎ロック1杯)を超えない、節度ある飲酒を心がけましょう。
老化に対応するために摂りたい栄養素や成分
健やかな体作りには、まずバランスの良い食事という基本が欠かせません。これに加えて、アンチエイジングの研究でいま注目の栄養成分をご紹介します。
「オメガ3脂肪酸」には、老化に対応する働きが期待できます。オメガ3脂肪酸の中でも「EPA(エイコサペンタエン酸)」は、炎症を抑える働きで、血管の健康を保つと考えられます。また「DHA(ドコサヘキサエン酸)」は、脳の構成成分となって、脳機能に役立ちます。いずれも魚の油に多いとされる成分です。また、アマニ油やえごま油にも、オメガ3脂肪酸が豊富です。
スイスチューリッヒ大学を中心とした研究※2で、オメガ3脂肪酸の補給と、老化進行の抑制の関係が示唆されました。「生物学的年齢指標」の一部(例:エピジェネティック時計等)において、平均で数か月相当の老化の進行が遅延した、といった報告がされています。
「ビタミンD」には、慢性炎症を抑えたり、酸化ストレスを軽減することで老化予防の働きが期待できます。
また、ビタミンDの血中濃度が高いと、生物学的年齢の指標とされる「テロメア」が長い傾向があるとされてきました。最近の研究※3で、ビタミンDの毎日の摂取が若々しさの維持につながることが示唆されました。ビタミンDの炎症や酸化ストレスへの作用が、テロメアの短縮スピードを短くすると考えられています。
ビタミンDが不足しないよう、適正量の摂取を意識していきましょう。
腸を健康にする働きで、ますます注目度の高まっているのが「食物繊維」です。老化を進める炎症は、腸内細菌と関係しており、腸内環境を整えることで老化が防げると考えられます。
食物繊維は根菜、全粒穀物、イモ類、豆類、海藻などに豊富に含まれているので、積極的に取り入れましょう。
抗酸化成分は、それ自身が活性酸素によって酸化されることで、私たちの体を酸化から守ってくれます。さまざまな食品に含まれますが、植物性の食品に含まれる「ポリフェノール」は、代表的な抗酸化成分です。野菜には、それぞれに特徴的なポリフェノールが含まれるので、いろいろな種類の野菜をたくさん摂りましょう。
また、昨今では、ポリフェノールの一種である「ケンフェロール」が、細胞内のミトコンドリアで酸素を効率的に活用して、エネルギー産生をサポートする成分として注目されています。
まとめ
老化といっても、加齢による変化だけでなく、日々の生活習慣が原因であることがわかってきました。つまり、自分をどうケアするかによって、心身の若々しさを保つことができるのです。栄養バランスの取れた食事や、適切な運動や睡眠。そして酸素を有効活用し、いつまでも元気で健康な体を保っていきましょう。
〈参考文献〉
- ※1 Sekine H, Takeda H, Akihiro T, et al.PNPO–PLP axis senses prolonged hypoxia in macrophages by regulating lysosomal activity.Nature Metabolism. 2024;6:1108–1127.
- ※2 Bischoff-Ferrari, H. A.,Gängler S,Wieczoreket M , et al. Individual and additive effects of vitamin D, omega-3 and exercise on DNA methylation clocks of biological aging in older adults from the DO-HEALTH trial. Nature Aging. 2025;5:376–385.
- ※3 Haidong Zhu, JoAnn E Manson, Nancy R Cook, Bayu B Bekele, Li Chen, Kevin J Kane, Ying Huang, Wenjun Li, William Christen, I-Min Lee, Yanbin Dong
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