肩こりと酸素
厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、全国民を対象とした健康状態の自覚症状の中で、肩こりは男女とも第2位※で、もはや国民病ともいえます。
- ※2022年(令和4年) 国民生活基礎調査
肩こりはなぜ起こる?
肩こりを説明する上で、キーワードとなるのが「筋膜」です。
筋膜とは、筋肉を覆っている膜のこと。筋肉は細い「筋線維」が束になって構成されており、その筋線維の束を筋膜が覆って保護しています。
筋膜は、筋肉の保護だけでなく、多様な機能を持っています。神経からの命令の伝達や、筋膜の内外の環境を感知して恒常性を保つよう働きます。また、免疫機能の調整役でもあり、筋肉周囲の免疫や炎症の調整にも関わっています。
さらに最近では、皮膚よりも感覚神経が豊富であることがわかり「第2の感覚器官」とも考えられています。
肩こりとの関係についてみていくと、筋膜は加齢と共に硬くなり、柔軟性が失われて伸び縮みしにくくなります。
また、筋肉を動かさないでいると、同様に筋膜は硬くなります。
現代人は、パソコン作業などで同じ姿勢を続けて、首や肩、腕などをあまり動かさずに過ごしているので、若くても筋膜が硬くなりがちです。スマホの使用時、下向きでジッとしている姿勢も問題です。
肩が重だるい、動かしにくい、張っている感じがするといった症状は、筋肉を覆っている筋膜が硬くなり、動きが悪くなることが主な原因のひとつです。
肩こりによる痛みのしくみ
また、痛みの出るしくみについても説明していきましょう。
筋肉は、収縮と弛緩=縮んだり伸びたりすることで機能します。
収縮する時には、筋線維と筋線維が重なり合うので、全体としては筋肉が短く、太くなります。
筋肉は太く短く形を変えますが、筋膜はそもそも伸び縮みをあまりしない構造です。
しかも、運動不足などで硬くなり、柔軟性が失われた状態だとどうなるか。伸び縮みしない袋の中で、筋肉が太く膨らんだ状態を想像してみてください。袋がパンパンになりますよね。
このように、筋膜が強く引っ張られることで痛みを感じる。これが肩こりの痛みの正体と考えられています。
特に肩周りは本来よく動く部位でありながら、動かすことが激減した生活様式により、筋膜が硬くなりやすく、痛みが生じやすくなっているのです。
なお、肩こりは筋肉の痛みと思われがちですが、実は痛みを感じる「痛覚」は筋肉にはほとんどなく、筋膜に多く存在しています。先にご紹介したように、筋膜は皮膚を超えるほどの感覚器官で、痛みを感じる機能が高いのです。
他にも、痛みにつながるしくみがあります。
肩の筋肉は、常に7kgほどもある重たい頭を支えています。筋肉が使われると、乳酸やクレアチンなどの代謝産物が生まれます。
筋肉の中で、代謝産物の濃度が高くなると、濃度を一定に保つために水が集まってきます。すると筋肉はむくみます。むくんで体積が大きくなっても、筋膜が硬ければ、筋肉の変化に合わせて伸びることができません。筋膜が強く引っ張られることで、やはり肩の痛みを引き起こすと考えられます。
酸素と肩こりの関係
肩こりの原因である、硬くなった筋膜を柔らかくするには、ふだんから腕や肩を意識して動かしたり、ストレッチなどで伸ばすことが有効です。
ここで必要になるのが、呼吸で取り込んだ酸素を利用して作り出されるエネルギーです。
栄養と酸素を利用して作られる「ATP(アデノシン三リン酸)」は、体のすべての器官のエネルギーの元であり、もちろん肩の筋肉を動かすために必要なエネルギー源です。
肩まわりは可動域が広いため、肩こりにも、以下のような多くの筋肉が関わっています。これらすべての筋肉にエネルギーが届くことが、肩のスムーズな動きのために必要です。
僧帽筋(そうぼうきん)…首の後ろから肩、背中にかけて大きく広がる筋肉。頭を後方から支える。スマホ首や猫背姿勢で負荷が増大する。
頭半棘筋(とうはんきょくきん)…首や肩の姿勢を維持する筋肉。スマホなどでうつむく姿勢で酷使される
頭・頚板状筋(とう・けいはんじょうきん)…頭の角度を変えるときに使われる。デスクワークなどで、角度を固定した姿勢を続けると硬くなる
肩甲挙筋(けんこうきょきん)…肩甲骨を引き上げ肩をすくめる動きをする。肩甲骨と頭の後ろの骨を繋いでいて、後方から頭を支える機能も担う。
菱形筋…背骨と肩甲骨をつなぐ筋肉。巻き肩と言われる姿勢や猫背姿勢が続くと過剰に伸ばされて、こりにつながる
肩こりを防ぐには
肩こりを防ぐには、肩を程よく動かすことが大切です。肩を動かす際は、筋肉が収縮と弛緩をくり返します。
筋肉は縮んだ時、血管に圧力をかけて血液を絞り出します。そして緩んだ時に内圧が下がり、血流を引き込みます。つまり、収縮と弛緩をくり返して動かすことで、筋肉周囲の血流が良くなります。
逆に動かさないと、血流は乏しくなり、代謝が滞って、筋膜は硬くなります。筋膜が硬くなると、肩こりを引き起こします。
程よい運動で血流改善をすることが肩こり改善につながるため、筋肉へのエネルギー供給が大切であることがわかります。
また、組織を作り変える代謝の中でもエネルギーが使われます。肩をよく動かすと、筋膜も刺激を受けて代謝がよくなり、新しく柔軟に生まれ変わります。
つまり、肩こりの予防にも改善にも、酸素を利用して作り出したエネルギーが、多様な形で使われることになるのです。
肩こりを改善するには
肩こりはふだんの生活習慣が積み重なって起こるもの。こりの原因をためない習慣を取り入れることで、肩こりの悩みを手放していきましょう。
筋膜は、硬くなることで肩こりにつながります。ストレッチで引き伸ばすと、筋膜は柔らかくなることがわかっています。ストレッチを続けることで、筋膜の柔軟性が保たれ、肩こりを引き起こしにくくなります。
また、筋膜を柔らかくするには、新しい組織に置き換わる必要もあるため、代謝の促進が大切になります。ストレッチの伸ばす刺激で、代謝がより促されるというメリットもあります。
有酸素運動をしたり、入浴で体を温めると、血行が良くなって硬い筋膜や筋肉がゆるみ、肩こり改善に効果的です。
ただし、有酸素運動の代表格ともいえるウォーキングは、肩周りをほとんど動かしません。歩きながら腕を大きく振るなどの工夫をしましょう。水泳のように、肩を動かす運動はより効果的です。
肩を大きく回すエクササイズを、毎日数回続けるのも肩こり改善に有効です。
デスクワークで猫背姿勢を続けると血流が悪くなります。また、スマホ操作でずっと頭を下げた状態でいると、約7kgという頭の重さが首にかかり、支える筋肉にも大きな負担となります。猫背姿勢にならないよう机や椅子、パソコンの高さを調節しましょう。またスマホを見るときは、できるだけ目線の高さに上げるよう心がけてみましょう。
ストレスがあると、自律神経の緊張状態が続くことで血流が悪くなり、肩こりを引き起こしやすくなります。ストレスの原因を完全に取り除くのは難しいですが、運動をすると心を安定させる「セロトニン」などのホルモンの分泌が促され、ストレス改善につながることがわかっています。血流アップとダブルの効果が期待できる、運動でのストレス改善がおすすめです。
特に「ビタミンB1」は、神経伝達物質や炎症に関わる物質に作用して、痛みを軽減させる効果があります。さらに、エネルギー代謝にも不可欠な栄養で、筋肉に生成された乳酸をエネルギーに再転換する作用も。こうした働きから、肩こりの軽減につながると考えられています。
また、ポリフェノールの一種であり、植物由来の成分「ケンフェロール」は、細胞のミトコンドリアの酸素利用を効率的にし、エネルギー産生をサポートする成分として注目されています。
まとめ
実は、肩こりに悩まされるのは、生物の中でも、おそらく人間特有の現象です。四足歩行の動物は、肩が支えるのは首だけです。しかし、人間が二足歩行になったときから、首だけでなく、腕も支えなければならなくなったため、首の後ろ・肩の後ろにある筋肉への負担が増えたのです。肩こりは病気が原因のこともありますが、多くは運動不足などによるものです。日頃の生活習慣を見直して、肩こりの予防・改善に努めていきましょう。
〈参考文献〉
- Hijlkema A, Roozenboom C, Mensink M, Zwerver J. The impact of nutrition on tendon health andtendinopathy: a systematic review. J Int Soc Sports Nutr. 2022;19(1):474-504.
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- Slater AM, Barclay SJ, GranfarRMS, Pratt RL. Fascia as aregulatory system in health anddisease. Front Neurol. 2024 Aug7;15:1458385.
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