ATP研究の先にあるもの
― 健康、予防、そして社会への還元

山本正道先生

ATPの可視化技術は、単なる研究ツールに留まりません。エネルギーの安定を保つための物質探索、老化との関係解明、新たな分野とのコラボレーションなど、ATPの研究は、健康の枠を超え、社会のあらゆる場面へ広がろうとしています。山本先生が考えるエネルギーマネジメントと未来へのビジョンについて伺いました。

国立循環器病研究センター 研究推進支援部 特任部長 山本 正道 先生

大阪大学工学部卒業、同大学大学院医学研究科を早期修了。同大学大学院生命機能研究科助教を務めた後、民間企業での研究員を経て、群馬大学先端科学研究者指導者育成ユニット助教、科学技術振興機構(JST)さきがけ研究員、京都大学医学研究科特任講師・特定准教授を歴任。2020年より現職に至る。生体のエネルギー代謝を可視化する技術を開発し、生物・医学・薬学・工学など幅広い領域への応用・貢献を目指して研究活動を行う。

ATPは健康寿命を延ばす根本要素

ー ATPを分かりやすくどのように説明されますか?

山本正道先生

「疲れたなぁ、エネルギー不足かな」というときがありますよね。その「エネルギー」をATPに置き換えて考えるとイメージしやすいでしょう。一言でいえば、「簡便に使いやすいエネルギー」。私はよく“100円玉みたいなもの”と例えます。今は物価高だから500円玉かもしれませんが(笑)。

ー 長期的にATP産生効率をあげることは、どのような意味を持つと思われますか?

屋外でウォーキングする年配の夫婦

ATPを安定的に産生できることで、健康な状態を長く保つことが可能になるでしょうし、何かしらの不調に陥ったとしても、早く回復できる身体づくりにつながると思います。健康寿命を延ばすための根本的な要素のひとつと言えるかもしれません。もちろん、ATPが全てとは言えませんが、少なくともATP産生能を高めるのは間違った方向ではないはずです。

生命エネルギーの枯渇状態を減らす

ー エネルギーをマネジメントする上で、どのようなことが重要だと思われますか?

山本正道先生

エネルギーを増やすことよりも、エネルギーが枯渇する状態をできるだけ少なくし、安定した状態を保つことが健康につながると考えています。そのメカニズムを明らかにし、作用する物質を見つけていくことが、ひとつの方向性です。

ATP濃度は高すぎても低すぎても良くありません。高すぎれば使わないお金をただ持っているようなもの。低すぎれば生命の維持ができません。重要なのは、低い状態を避け、低下しそうになったら素早く回復できる経路を活性化させること。そのための物質やメカニズムを解明すれば、有用な成果が得られるはずです。

ー エネルギーを安定した状態にするうえで、ケンフェロールは有用性があると思いますか?

ケンフェロール分子構造図

初めてケンフェロールについて話を聞いたとき、非常に面白い物質だと思いました。 もしケンフェロールが低酸素状態への耐性を高められるなら、健康維持にも役立つ可能性があります。今実施している研究でも、大変ポジティブな効果が得られており、今後どこまでの成果が見えるのか楽しみです。

山本正道先生

また、私はその効果のメカニズムにも関心があります。仕組みが分かれば、ケンフェロールを改良してより効率的な方法が見つかるかもしれませんし、そのポテンシャルをさらに引き出せると思いますよ。

世の中の役に立つために研究を続ける

ー 今後の研究や展望について教えてください。

山本正道先生

以前は教科書に残るような仕事をしたいと思っていましたが、今は「どうすれば世界中の人の健康に役立つことができるのか」を意識するようになりました。何らかの製品として、社会に還元できればとも思っています。

また、現在の研究を健康や食品分野だけでなく、ロボットの動作や省エネ、機械、土木などにも応用できると考えています。異なる分野とコラボレーションすることで、新しい可能性が生まれるかもしれません。この研究に興味を持ってくださる方がいれば、違う視点が加わり、新しいものが生まれると感じています。

山本正道先生

科学は過去から積み上げ、現在があり、その延長に未来があると考えますが、私は、過去と過去や、過去と現在のものが偶然組み合わさることで、大きな化学変化を起こし、新しいものを生み出すことがあってもよいと思っています。一見、離れた領域でも融合できる部分を探すのは面白いですよ。新しい山ができれば、そこから裾野が広がっていくと思います。だからこそ、自分の分野を離れ、別の分野の知識を持つ必要があります。

ATPの可視化・操作研究を健康管理に応用し、その特性や有用性を引き出して横展開していきたいですね。あと何年実験できるか分かりませんが、少しでも世の中に貢献できることがあれば挑戦したいと思っています。

この記事をシェアする