健康寿命に深く関わっている睡眠。睡眠中も呼吸により酸素を取り入れ、エネルギーを産生し続けています。健康的な日々を生きるために、睡眠の重要性と、どのような対策が必要か。また、ケンフェロールに期待できることについて、内村直尚先生にお話を伺います。
睡眠の重要性
ー 日本において睡眠の重要性はどの程度理解されているのでしょうか?
これまで、日本人は睡眠を削って働くことで経済成長を成し遂げ、寝る間を惜しんで勉強することで教育レベルを上げてきました。現在は多少認識が変わってきていますが、睡眠時間は短いままです。学校で睡眠の大切さを教えていないですし、医学部でも充分に睡眠について学びませんから、医師自身が睡眠の重要性を十分に理解していないのです。
しかし、徐々に睡眠の重要性については認識が広がりつつあります。
働き方改革では、勤務間インターバル制度※の導入が企業の努力義務として定められ、2024年4月からは、医師にも働き方改革が導入されました。1日の勤務時間は15時間以内、インターバルは9時間とることが義務付けられています。

また、2023年4月に改訂された母子手帳には、健診のチェック項目に、子どもと保護者の睡眠の問題の有無が新しく追加されました。骨太方針2024にも「睡眠」の言葉が盛り込まれ、国家レベルでの睡眠対策がやっと動き出したように思います。
- 勤務終了後、次の勤務までに一定時間以上の休息時間を設けることで、生活時間や睡眠時間を確保する制度
良質な睡眠を得るために
ー 質の良い睡眠を得るためには、どのような対策が必要でしょうか?
良質な睡眠を得るためにはリズム・量・質が満たされている必要があります。良質な睡眠を達成するための対策として挙げられるのが、生活習慣・嗜好品・睡眠環境の改善です。
まず、生活習慣の改善として、体内時計をリセットするために、朝一定の時間に起床して日光を浴び、朝食をきちんととること。

日中は十分に活動し、夕食後はすぐに寝るのではなく、2~3時間以上あけましょう。また、寝る1時間くらい前に40℃くらいのお風呂に入って体を温めるのもおすすめです。温まった体温が下がるとき、ぐっすりと眠りやすくなります。
嗜好品で注意したいのが、覚醒作用のあるタバコとカフェイン、アルコールです。タバコは禁煙が望ましく、夕方以降はカフェインの多いコーヒーや緑茶などをできるだけ避けることが大切です。
アルコールは一時的に寝つきを良くしますが、3~4時間経過するとアルコールはアルデヒドという覚醒物質に代謝され睡眠を阻害するので、寝る3~4時間前の晩酌に留めましょう。適量はアルコール換算で1日20gまでとされています。ビールなら500mL、日本酒なら1合、ワインなら小グラス2杯、ウイスキーならダブル1杯、焼酎なら6:4のお湯割り1杯程度です。

睡眠環境で大切なのが明るさ・静けさ・温度です。明るい光を浴びると睡眠が遅れて浅くなるので、照明を落とし、入床の2時間前からブルーライトを浴びないようにすることが大切です。寝室の光は30ルクス以下、昔のトイレの豆電球くらいが良いですし、音については40dB(デシベル)以下が良く、図書館と同じレベルの静けさです。温度については季節によって変わりますが、18~28℃の快適な室温に調整すると良いでしょう。寝る前にアロマなどを炊きリラックスするのも効果的です。
睡眠対策におけるケンフェロールへの期待
ー 睡眠への対策として、ケンフェロールにどのようなことが期待できるでしょうか?

現在はGABAやトリプトファンなど、睡眠をサポートする様々な成分が確認されていますが、ケンフェロールにも期待を寄せています。
最近の研究では、朝にケンフェロールを摂取することで、日中の活動性が上がり、結果的に睡眠時の自律神経のバランスと睡眠の質が改善したという報告があります。
今は、スマートフォンやウェアラブルデバイスなどで、自分の睡眠状態を可視化できる時代です。生活習慣を改善し、睡眠環境を整え、嗜好品をコントロールすることは先決ですが、睡眠において何かあれば病院を受診し、専門家に適切なアドバイスを求めると良いでしょう。
「心のかかりつけ医」を広めたい
ー 今後の研究や展望をお聞かせください。
脳や心、睡眠のメカニズムは、未知の部分が多くブラックボックスです。睡眠不足によって引き起こされるリスクはわかってきていますが、果たして睡眠を取ることで、病気自体を改善できるかについての介入研究はまだまだ不足しています。今後、睡眠と身体疾患や精神疾患の改善とのかかわりについて深く研究していくことで、より睡眠の重要性が認知されていくのではないかと思います。

現在、私は新たな標榜診療科として「睡眠」あるいは「睡眠障害」を組み合わせて、精神科(睡眠障害)、心療内科(睡眠障害)の標榜を実現させたいと考えています。睡眠障害は精神疾患と大きな関わりがあります。しかし、いきなり精神科を受診するのは心理的ハードルが高く、受診できない人が多いのです。そこで、睡眠を切り口にすることで、精神科の敷居を下げ、従来のイメージを変えたい。もっと気軽に精神科や心療内科に相談できる仕組みをつくりたいという想いがあります。
もう一つ、子どもたちの睡眠不足は日本の重大な課題であり、睡眠時間確保の重要性を社会全体で認識してほしいと思っています。そのためには、家庭のなかの睡眠を変えてかないといけないし、社会を変えていく必要があります。そこで、国家レベルでの睡眠の重要性の理解や啓発を目指し、2023年10月に「国民の質の高い睡眠のための取り組みを促進する議員連盟(睡眠議連)」を立ち上げました。

睡眠にはさまざまな可能性があります。睡眠を介した「心のかかりつけ医制度」を全国に広げていきたいですね。日本の100年時代は睡眠から!睡眠が充実すれば、日本人の健康寿命がのびて、素晴らしい人生100年時代を迎えることができると思っています。医療界、行政、産業界など、多方面から睡眠を追求し、幸福感のある人生のために貢献したいと願っています。
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