脳の働きと酸素の関係

私たちヒトが生きていくために欠かせない「脳」は、身体を動かす指令を出すと共に、様々な知的な活動もコントロールしています。
ここでは、そんな脳の働きと酸素の関係を紹介します。

ヒトの生命活動に欠かせない脳

様々な器官とつながっている脳の図

脳はヒトが生命を維持し、周囲環境に適応するためのいわば指揮者であり、神経を通じて、全身の皮膚や筋肉、様々な器官とつながっています。
ヒトが五感で収集した情報は、神経を通して脳に送られ、それらの情報に反応する身体の働きを、脳から神経を通して身体に指令を出します。
また、脳は情報を整理し、記憶、思考、想像、そして感情も脳の働きと関係しているのです。

脳のつくりと働き

大脳・間脳・小脳・脳幹の位置を示した脳の断面図

一般成人で1200g~1400gあるとされる脳は、大きく大脳、小脳、間脳、脳幹に分けられ、最も大きいのは脳全体の約80%を占める大脳です。
小脳は大脳の下に。脳の中心部から下部にかけては、間脳と脳幹が位置し、それぞれ脊髄へとつながっています。
そしてこれらの部位はそれぞれ異なった役割があり、主に大脳と小脳は意識的な活動をする際に働き、間脳と脳幹は主に無意識の活動を担っています。

記憶や思考、言語などを司る「大脳」
大脳のつくりを表した図

大脳は神経細胞が多く集まった「大脳皮質」によって表面が覆われています。この大脳皮質は、その場所によって前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉の4つの領域に分けられ、以下のようにそれぞれ異なる役割を担っています。
「前頭葉」…
主に身体を動かすときや、思考、判断を司る
「頭頂葉」…
主に感覚や読み書き計算などの知覚を司る
「後頭葉」…主に視覚を司る
「側頭葉」…主に記憶や聴覚を司る

この中で特に、前頭葉の中の「前頭前野」と呼ばれる場所は、
脳の“最高中枢”とも言われ、思考や創造性を司り、様々な情報を総合的に判断し、行動を決定しています。ヒトが自分の感情を表現できるのは、この前頭前野の働きによるものであり、それにより人間が人間らしい社会的な行動や論理的な判断など、高度な活動が行えているのです。

姿勢の維持、身体の動きの
調整などを司る「小脳」
小脳の位置を示した脳の断面図
姿勢の維持、身体の動きの調整などを司る「小脳」

容積は脳全体の10~15%程度で、大脳の後下方に位置する小脳は、身体を動かす大脳をサポートし、その動きを滑らかにする役割があります。
小脳は大脳と密に連携し、情報交換を行うことで、大脳から出た動きの命令に対し、どの筋肉を動かすか、どうバランスをとるかなどを調整して筋肉に指令を送っています。自転車への乗り方、スキーの滑り方、泳ぎ方などといった運動は、小脳が細かい動きを長期にわたって記憶しているからできることなのです。

心臓の脈動、呼吸や体温の
調整などを司る「間脳」・「脳幹」
間脳と脳幹の位置を示した脳の断面図
心臓の脈動、呼吸や体温の調整などを司る「間脳」・「脳幹」

無意識の活動を担う間脳と脳幹は大脳から脊髄へつながる部分に位置しています。
間脳は大脳と脳幹をつなぎ役として、身体の感覚の情報を大脳に伝える他、体温、食欲、睡眠、性行動など、人間の生体リズムの調整を行う役割があります。
また、脳幹は大脳と小脳をつなぎ、大脳や小脳からの運動情報を脊髄に伝える役割の他、呼吸器、循環器、消化器など、人間の生命活動を調節する役割があります。

ニューロンによる情報伝達の図

脳の中で体内のあらゆる
情報処理をするもの

視覚や臭覚、触覚、聴覚、味覚など、外から受けたあらゆる感覚が脳に伝わると、脳はこれらの膨大な情報を処理して判断することで、身体活動、知的活動、感情コントロールを行っています。
この膨大な情報処理をしている脳は、1,000億以上にも及ぶ、短いヒゲ状の「樹状突起」と、長いヒゲ状の「軸索」を持つニューロンと呼ばれる神経細胞で構成されています。
ニューロンは、短いヒゲ状の「樹状突起」で他のニューロンからの情報を受け取り、その情報を、長いヒゲ状の「軸索」で次のニューロンに伝達するというネットワークによって、運動や思考といった様々な指令を出しています。

脳は大量の酸素を必要とする臓器

ヒトが生命活動を行うために重要な臓器である脳は多量のエネルギーを必要とします。このエネルギー産生のために必要なのが、ブドウ糖と「酸素」です。
呼吸をすると、酸素は肺でヘモグロビンと結合し、動脈によって脳に運ばれ、ブドウ糖とともに毛細血管から脳組織に直接渡されます。そうして運ばれてきたブドウ糖と酸素から、作り出されたエネルギーを利用することで、脳はその機能を維持しているのです。

脳に供給される血流と酸素消費量

そして脳は、筋肉のように酸素を貯蔵することができず、供給された酸素を一瞬にして使い果たしてしまうため、脳には毎分約750ml、1日で約1000~1500リットル前後の血流が供給され、常に酸素が運ばれています。その酸素消費量は成人安静時で約3.5ml/100g/minとされ、全身酸素消費量の約20%にも及び、脳にたくさんの作業をさせるような負荷をかけると、酸素消費量はより高まり最大50%まで使用されます。

酸素を安定的に確保するための、脳の機能

常に多くの酸素を必要とするヒトの脳。
その酸素を安定的に得るため、脳には血流や酸素消費量を一定に保つ機能や、酸素を取り込む呼吸を管理する機能が存在しています。

脳の血流を一定に保つ
「循環予備能」
酸素を運ぶ血流のイメージ図

細胞が作り出すエネルギー産生量を高めるには、多くの酸素が必要となりますが、脳はこの酸素を自身のところまで運んでもらうための「血流」をコントロールする機能があります。
例えば、心臓のポンプ機能が弱くなって血流が低下したり、血液内の酸素が減ったりすると、脳は自らの血管を広げて、より多くの血液を呼び込み、血流量を一定に保つのです。

脳の酸素消費量を一定に保つ
「代謝予備能」
酸素消費量を一定に保つ脳のイメージ図
脳の酸素消費量を一定に保つ「代謝予備能」

血流量が足りなくなると、脳への酸素の供給量が一時的に減少してしまいます。そこで脳には、脳細胞自体の酸素摂取率を上げる機能があります。これにより、少ない血液からでもできるだけ多くの酸素を摂取することで、酸素摂取量を一定に保ちます。

肺の呼吸機能をコントロール
呼吸機能を管理する脳のイメージ図

酸素を大量に取り込むのに、脳は呼吸機能も厳密に管理しています。
人間の血液は、細胞の機能を維持するために弱アルカリ性に保たれていますが、運動などで血液中の酸素が減り、逆に二酸化炭素が増えると、血液は酸性に傾きます。
脳は、酸性に傾いた血液を察知すると、呼吸の深さや速さを調節して、二酸化炭素を酸素に交換するよう素早く指示を出し、血液中の酸性とアルカリ性のバランスを常に一定にするように働きかけるのです。

脳の酸素利用効率を高めるために

ケンフェロール分子構造図

脳の酸素利用効率を高めるために

私たちの脳は多くのことを考え、全身に指令を出して、休む間もなく働いています。
そんな脳が働くためのエネルギー産生に必要不可欠な「酸素」。
このエネルギーを生み出すための酸素を上手く利用するためには、材料であるブドウ糖のもとである糖質をはじめとした五大栄養素をバランス良く摂ることはもちろん、継続的な有酸素運動が良いとされています。また、昨今ではポリフェノールの一種である「ケンフェロール」という成分が、酸素を効率よく利用し、エネルギー産生をサポートすることも分かっています。

ケンフェロール分子構造図

健康な脳を保つ

現代社会では脳にかかる負荷が高まり、酸素の効率的な利用と脳の健康維持がこれまで以上に重要になっています。健康な脳を保つことは、日々のパフォーマンスやストレスへの対応力など、生活の質の向上にもつながります。今後の栄養学における研究の進展とともに、脳と酸素の関係に関する理解を深めることが、健康で活力ある毎日につながるでしょう。

監修:酒谷 薫 先生
東京大学高齢社会総合研究機構 特任研究員
東京大学大学院新領域創成科学研究科 共同研究員
株式会社AI予防医学研究所 代表取締役CEO

医学博士・工学博士で脳神経外科専門医。1981年大阪医大卒業後、NY大・Yale大で助教授を歴任。日大教授を経て、2019年東大特任教授に就任。現在は東京大学高齢社会総合研究機構 特任研究員や、東大発ベンチャー株式会社AI予防医学研究所の代表取締役などを兼務。医学と工学の融合分野で活躍し、2010年日本医師会医学研究奨励賞受賞。

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