運動時の息切れと酸素

運動を行い、息切れをしている男性

坂道や階段を急いで登ったり、高強度の運動を行ったりすると、息切れを感じることがあります。これは単なる体力不足ではなく、運動生理学的には、筋活動に必要なエネルギー需要が急激に高まり、酸素の供給が一時的に不足することによって起こる現象です。呼吸循環系と末梢組織での酸素利用が最大限に働いても需要が満たされない場合に、「息切れ(dyspnea)」として自覚されます。

運動時の呼吸生理と酸素供給

血液中のヘモグロビン

酸素は肺胞で血液中に拡散し、ヘモグロビンと結合して全身に運ばれます。心臓のポンプ機能によって運搬された酸素は、運動により活性化した骨格筋細胞に取り込まれ、ミトコンドリアでATP産生に利用されます。安静時には基礎代謝を維持する酸素量で十分ですが、運動強度が高まると酸素消費量(VO2)が増大し、それに伴って換気量と心拍数の上昇が必要になります。

延髄の呼吸中枢のイメージ

呼吸は横隔膜や肋間筋といった呼吸筋によって行われますが、その活動は延髄の呼吸中枢により調節されています。さらに、動脈血中の酸素分圧(PaO2)、二酸化炭素分圧(PaCO2)、血液pHの変化は化学受容器によって感知されます。運動によって酸素消費と二酸化炭素産生が増加すると、これらの受容器が反応し、呼吸中枢から呼吸筋への指令が増強されます。その結果、換気量が増え、酸素供給が確保されるのです。したがって、運動時の息切れは、酸素需要の増加に対する生理的な適応反応であるといえます。

息切れを助長する要因

息切れは健常者でも高強度運動で出現しますが、身体的条件や生活習慣によって起こりやすさが異なります。

身体的不活動および加齢
ベンチで息を整える年配の男性
身体的不活動および加齢

運動不足や加齢によって心肺機能が低下すると、最大酸素摂取量(VO2max)が減少し、比較的軽い運動でも息切れが生じやすくなります。呼吸筋の筋力低下は肺の拡張を妨げ、換気効率を低下させます。

喫煙
机の上に置かれたタバコ
喫煙

喫煙は肺胞構造を損傷し、肺の弾性を低下させます。また、一酸化炭素がヘモグロビンと結合して酸素輸送を阻害するため、運動時の酸素供給が制限され、息切れが強くなります。

肥満
デスクワークをする男性
肥満

体重が増えると活動時の酸素需要が増大します。さらに胸郭の動きが制限されることで肺容量が減少し、呼吸が非効率になります。肥満は心臓への負担や動脈硬化を進行させ、酸素供給を妨げる要因にもなります。

高温多湿環境
屋外で汗を拭っている男性
高温多湿環境

高温下では体温調節のため皮膚血流が増加し、筋肉への血流が減少します。発汗による脱水は循環血液量を減らし、酸素運搬を妨げます。さらに高湿度では発汗による放熱が妨げられるため、体温上昇を抑えるために呼吸数が増え、息切れが助長されます。

息切れを軽減するための対策

息切れの軽減には、酸素を効率よく「取り込む・運ぶ・使う」ための工夫が重要です。

呼吸法の工夫
口すぼめ呼吸を行っている女性
呼吸法の工夫

息切れを感じたときは、吸うことよりも、まず吐くことを意識しましょう。特に口すぼめ呼吸(pursed-lip breathing)は、呼気をゆっくり行うことで肺胞換気を改善し、酸素取り込みを助けます。

有酸素性運動習慣
サイクリングを行う女性
有酸素性運動習慣

ウォーキングや水泳、ジョギング、サイクリングといった有酸素運動を継続すると、心肺機能が向上し、VO₂maxが改善します。結果として、同じ運動強度でも息切れが起こりにくくなります。また、筋肉の酸化的代謝能力も高まり、酸素利用効率が上がります。

筋力トレーニング
筋力トレーニングを行っている二人組
筋力トレーニング

呼吸筋の強化は換気効率を高め、下肢筋群の強化は運動パフォーマンスの向上に寄与します。筋力が増すことで同じ動作に必要なエネルギーが減少し、息切れの発現が遅れます。

体重管理
体重計に乗ろうとしている女性
体重管理

適正体重を維持することは、酸素需要を抑え、呼吸や循環への過剰な負担を防ぐうえで重要です。栄養バランスのとれた食事と定期的な運動を組み合わせることで、呼吸循環機能の維持にもつながります

まとめ

青空の下でウォーキングをする女性

運動時の息切れは、酸素需要の増加に対する呼吸循環系の適応反応として生じる現象です。ただし、運動不足や加齢、喫煙、肥満、高温多湿環境などの要因が重なると、息切れはより出やすくなります。息切れは、酸素を取り込む・運ぶ・利用する能力の限界を示すサインでもあります。
しかし、呼吸法の工夫や有酸素運動・筋力トレーニングの実践、体重管理を行うことで、この制限を改善することが可能です。日常生活に適度な身体活動を取り入れることは、息切れを抑制し、運動耐容能を高め、より快適でアクティブな生活を送るために有効な手段といえるでしょう。

監修:早稲田大学 スポーツ科学学術院 教授 宮地 元彦 先生

鹿屋体育大学スポーツ体育課程卒業、同大大学大学院体育学研究科修了。その後、川崎医療福祉大学助教授、米国コロラド大学客員研究員を経て、2003年より独立行政法人国立健康・栄養研究所(現:国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)に勤務。現在は同身体活動研究部 部長を務める。2021年には早稲田大学 スポーツ科学学術院 教授に就任。身体活動と食事が健康に及ぼす相互作用を生理学や疫学の手法を用いて明らかにする研究などを行っている。第24期・25期日本学術会議 会員、厚生労働省「健康づくりのための身体活動基準・指針」改定検討委員会 委員、「健康日本 21」推進委員会 委員、スポーツ庁 「運動・スポーツガイドライン」策定検討会 委員などを務める。

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