肝臓と酸素
肝臓とは、人の内臓の中で最も大きい臓器で、栄養素の代謝・貯蔵、有害物質の解毒、胆汁の生成・分泌など、
多くの複雑な働きを担っています。
これらの膨大な働きを行うために、肝臓は大量のATP(アデノシン三リン酸)が必要になります。
ATPは主にミトコンドリアで作られ、細胞の中で行われるエネルギーが必要な反応に使われます。
そのエネルギーを生み出す過程で不可欠なものが「酸素」です。
肝臓の働き
肝臓は右上腹部に位置し、肋骨に守られるように存在する人体のなかで最も大きい臓器で、成人では約1~1.2kgもの重さがあります。正常な肝臓であれば3分の2ほど切除しても、数ヶ月すると元の大きさに戻るほど、強い再生能力が知られています。
肝臓の機能は多岐に亘り、糖質・たんぱく質・脂質の代謝や栄養分の貯蔵、有害物質の解毒、消化吸収を助ける胆汁を生成・分泌するなど、まるで化学工場のような働きをしています。
ヒトは食物からの栄養素をそのまま利用することはできません。食べたものは胃や腸で吸収されやすい形に変えられた後、肝臓へ送られ、そこでいろいろな成分に加工されると、動脈を通って必要な場所に配られていきます。例えば、食事などからとった糖質は、グリコーゲンとして貯蔵され、必要に応じてエネルギー源として血中に放出されます。
体内に取り込まれたアルコールや薬物、有害物質、栄養素を代謝する時に発生するアンモニアなど、身体にとって有害となる物質を分解して無害なものに変え、胆道から十二指腸に排出したり、尿素に変えて体外へ排泄したりします。
肝臓では、コレステロールや胆汁酸を使って、ヘモグロビンを代謝したビリルビンなどとともに、「胆汁」という液体を産生しています。作られた胆汁は一度胆嚢に蓄えられ、脂質の多い食べ物を食べたときなどに、胆管を通じて十二指腸に送り出され、脂肪の分解・吸収を助ける働きや、古くなった赤血球や体に不要な微量金属などを体外へ排出する役目があります。また、胆汁を作る過程で血液中のコレステロールの量を調整するという機能も果たしています。
肝臓と酸素の関わり
肝細胞は酸素を利用してATPを産生し、そのATPを介してエネルギーを供給しながら、解毒作用、糖新生、脂質代謝、タンパク質合成など、多岐にわたる代謝活動を行っています。肝臓は心拍出量の約20〜25%という大量の血液を受け取っており、それほど、酸素と栄養の供給が不可欠な臓器です。そのため、肝臓は2つの血管から血液が流れ込む「二重の血液供給」という特徴的な仕組みを備えています。
一つは「門脈」です。食べ物から取り込まれた栄養が豊富に含まれており、ここから肝臓へ流れる血液は全体の70%を占めます。もう一つは肝動脈で、酸素が豊富な血液を運んでいます。肝臓で使い終わった血液は肝静脈を通って心臓へ戻ります。門脈の血流が増えると肝動脈の血流が減り、その逆も起こります。これを肝動脈緩衝反応といいます。このように2つの血流がバランスを取り合うことで、健康な人の肝臓は血流が不足しないように守られているのです。
- 門脈(約70%)
- :腸などの消化管から栄養分を豊富に含んだ血液を運ぶ。
- 肝動脈(約30%)
- :心臓から直接送られる酸素を豊富に含む血液を供給。
この2つの血管からの血液が合流することで、肝臓は栄養と酸素の両方を同時に受け取り、安定した代謝活動を行うことができます。肝臓が確実に動くためには、酸素も栄養もどちらも必要で、その両方を届ける特別な血液の流れが、大切な役割を果たしているのです。
三大栄養素の代謝と酸素
では、肝臓における三大栄養素それぞれの代謝プロセスと、酸素との関りについて見ていきます。
食事から摂取した糖質は、消化吸収を経てブドウ糖(グルコース)に分解され、主要なエネルギー源となります。肝臓に取り込まれたグルコースは、エネルギー産生のために、まず「解糖系」でピルビン酸に分解されます。この段階では酸素を必要とせず、少量のATPが作られます。酸素が十分にある環境では、ピルビン酸はミトコンドリア内へと運ばれ、「TCA回路(クエン酸回路)」と「電子伝達系」という2つの段階を経て、さらに大量のATPを産生します。
肝臓は余ったグルコースを「グリコーゲン」という形で貯蔵し、血液中のグルコースが不足すると、再びグルコースに分解して血液中に放出します。
脂質は、「脂肪酸」と「グリセリン」に分解されて吸収され、肝臓では、脂肪酸を材料に、中性脂肪(トリグリセリド)やコレステロールなどが合成されます。エネルギーが必要になると、脂肪酸はミトコンドリア内で「β酸化」という反応によって分解され、アセチルCoAという物質に変換されます。このアセチルCoAがTCA回路や電子伝達系に入ることで、糖質代謝と同様に大量のATPが産生されます。特に脂質の代謝は多くの酸素を必要とするため、肝臓には安定した酸素供給が重要です。
タンパク質は「アミノ酸」という栄養素に分解されて、消化吸収されます。タンパク質がアミノ酸に分解される過程で、毒性の強いアンモニアが発生するため、肝臓では、「尿素回路(オルニチン回路)」を通じてアンモニアを無毒な「尿素」に変換します。この作業にもATPを介してのエネルギーが必要です。
このように、肝臓は、体内でエネルギーを作り出す重要な臓器です。肝臓は貯蔵しているブドウ糖や脂肪を分解してエネルギーを生成しますが、酸素が不足すると効率が悪くなります。エネルギー不足になると、代謝機能が低下し、糖質・脂質・タンパク質の代謝が停滞してしまうことが考えられます。また、アルコールや薬物、有害物質の分解が進まず、体内に有害物が蓄積し体への悪影響につながる可能性があるのです。
肝臓は、栄養素をエネルギーに変え、体内の有害物質を解毒し、血液成分やホルモンのバランスを調整するなど、人間の生命活動を支える中心的な役割を担っています。その多彩で複雑な働きのためにはATPが必要です。つまり、肝臓の健やかな機能は十分な酸素供給によって支えられており、それが健康を守る基盤になっているのです。
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