細胞のエネルギー産生に重要な栄養素
私たちは日々、食事から栄養を体に取り入れています。
そして、ヒトの全身の細胞内に多く存在する小器官であるミトコンドリアが、この摂取した栄養と酸素を利用し、生命活動に必要なだけのエネルギー(ATP)を作り出しているのです。
つまり、酸素はもちろんのこと、食事から摂取した栄養は、エネルギー産生に重要な役割を果たしているのです。
細胞のエネルギー産生に関わる五大栄養素
細胞内の主なエネルギー産生経路は、基本的に解糖系、クエン酸回路、電子伝達系の3つです。
クエン酸回路、電子伝達系はミトコンドリア膜内部で進行しますが、特に電子伝達系において、酸素を利用した多量のエネルギー産生が行われます。

5大栄養素である糖質、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラルは、それぞれ、エネルギー産生経路で行われる化学反応に関わっています。どの栄養素も多すぎたり、少なすぎたりすると化学反応が順調に進みません。したがって、5大栄養素はバランスよく体に取り入れると良いでしょう。それでは、エネルギー産生に関係する栄養素について詳しく説明します。
糖質
エネルギー回路の基となる栄養素でエネルギー産生に最も重要。
摂取エネルギー全体の50%~65%を占める。

エネルギー産生に必要となる栄養素の中で、最も重要なのが糖質です。
糖質は体内でグルコースまで分解され、エネルギー産生経路の解糖系、クエン酸回路、電子伝達系を経て多量のエネルギーを産生します。
日本人に推奨される糖質のエネルギー目標量は、摂取するエネルギー全体の50~65%にあたります。つまり、私たちは必要なエネルギーの半分以上を糖質から得ているということです。
脂質
クエン酸回路のエネルギー産生に関連。
同じ量でも糖質の2倍以上のエネルギーを産生。

脂質は脂肪酸とグリセロールに分解されたのち、アセチルCoAという物質に変換され、アセチルCoAがクエン酸回路に入ることでエネルギーが作られます。糖質とともに主なエネルギー産生栄養素として脂質は重要な役割を果たしており、単位重量当たりに産生するエネルギー量は、脂質が9kcal/gです。糖質、タンパク質の4kcal/gと比べると、同じ重量で2.5倍以上のエネルギーを得ることができます。脂質は、少量で多くのエネルギーが得られる栄養素です。また脂肪酸の一種であるα-リポ酸はミトコンドリア内で補酵素として働きます。
タンパク質
筋肉などミトコンドリアが多くあるところを成長させる。
糖質が不足したときなどに分解してエネルギーとして利用される。

基本的にタンパク質は、主に筋肉を作る材料として利用されますが、糖質、脂質の代わりにエネルギー産生の栄養素として使われることもあります。しかし、タンパク質がエネルギー源となるときは、体は飢餓状態です。体を構成するタンパク質をアミノ酸に分解して利用するので、体に負担がかかってしまいます。
また、食後、栄養素が消化・吸収される際、熱となり消費されるエネルギーのことを食事誘発性熱産生(DIT)といいますが、タンパク質は脂質・糖質に比べてこのエネルギー消費量が高く、タンパク質のみを摂取したときは摂取エネルギーの約30%、糖質のみでは約6%、脂質のみでは約4%がDITとして消費されます。
ビタミン
エネルギー産生経路に関わる補酵素。
特にビタミンB2はミトコンドリアの活性を高い状態に保つ。B12は造血に関与する。

ビタミンB群は、エネルギー産生経路に関わる補酵素(化学反応を助ける役割)として働きます。ビタミンB群が不足すると、糖質や脂質、タンパク質からスムーズにエネルギーを得ることができません。特にビタミンB2は、クエン酸回路、電子伝達系、脂肪酸のβ酸化※などエネルギー産生のさまざまな場面で関わっています。
他にはビタミンB1、B3(ナイアシン)、B5(パントテン酸)もエネルギー産生回路にとって不可欠なビタミンです。エネルギーの産生には酸素が必要となりますが、酸素を体中に運ぶのは赤血球の役割です。ビタミンB12は葉酸と協力して赤血球を生成する働きがあり、エネルギーと関係の深いビタミンと言えます。
- β酸化:ミトコンドリア内で起こる脂肪酸の分解経路のこと。脂肪酸をエネルギーとして利用するために必要な過程。
ミネラル
化学反応のサポートやエネルギーの構成要素になる。
鉄や銅は赤血球の構成要素となり酵素を運ぶ役割がある。

ミネラルは、直接エネルギーを産生するわけではなくエネルギー産生の化学反応をサポートする、体の調整役です。例えばマグネシウムは解糖系の化学反応を手助けします。リンはエネルギーであるATPの構成成分として使われるため、なくてはならない栄養素です。
また、鉄は電子伝達系の化学反応を助ける酵素としての働きや、赤血球のヘモグロビンの成分になって酸素を運搬する役目を果たします。
その他
5大栄養素には該当しませんが、エネルギーと関わりの深い栄養成分があります。
例えば、ビートルート(西洋野菜の赤いカブ)に含まれている「食事性硝酸塩」は、エネルギーをより多く使用する運動時、そのパフォーマンスを改善したという研究結果が報告されています。
また、高地の植物に多く含有され、フラボノイド(植物色素の総称)の1種である「ケンフェロール」は、生命活動を行うのに必要なエネルギー産生を行う、ミトコンドリアの電子伝達系での酸素利用効率を高め、エネルギー産生を助けることが分かっています。
エネルギー産生栄養素バランス
5大栄養素の中でも糖質・脂質・タンパク質は主にエネルギー源として働きます。
エネルギーを摂りたいからと言って、1gあたりのエネルギー量が多い脂質ばかり摂取すれば良いかといえばそれは誤りです。
糖質・脂質・タンパク質をバランスよく摂取することが重要であり、理想の総エネルギーに占める各栄養素の割合は健常な成人の場合、男女ともに糖質:50~65%、脂質:20~30%、タンパク質:13~20%、とされています。
栄養素のバランスが崩れると様々な不調が起こることが懸念されます。脂質を摂りすぎると使用されなかったエネルギーが脂肪として蓄積され肥満につながります。糖質を摂らずに過度な運動を行うと筋グリコーゲンが減少し、筋肉のタンパク質が分解され、結果的にパフォーマンスの低下を招く可能性もあります。
タンパク質が少なすぎると、筋肉の合成が進まず、筋肉量の減少により運動機能が低下します。
ひとつの栄養素だけに着目せず、それぞれの役割を理解した上でバランスよく摂取することが、効率的なエネルギー産生につながります。
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