水分補給と乾燥と粘膜免疫について

近年、風邪などの上気道感染の予防には「カラダの水分量を保つこと」が大切だと言われています。 これは、鼻腔や気管といった気道の上皮にある「線毛」という細い毛が、体内の水分量を保つことで活発に動き、ウイルスなどの異物が侵入するのを防ぐためです。

線毛の図解

1乾燥と粘膜免疫について

「粘膜免疫」は目や鼻、口、腸管などの粘膜でウイルスや病原体、花粉などの異物の侵入を防ぐ役割をしています。 ウイルスなどの異物が気道に侵入すると粘液で覆われた線毛が異物をキャッチし、外へ外へと押し出すように動き「痰」という形で喉の方へ排出されるか、 咽頭から食道を通り胃の中に入ります。この際、細菌やウイルスは胃酸によって殺菌されます。 空気が乾燥していたり、体内の水分が不足している状態では、粘液が少なくなるので、十分に線毛が活動できず異物を排出することが出来なくなってしまいます。

私たちは汗をかいていない状態でも皮膚や呼気から常に水分を失っています。気づかぬうちにカラダの水分が不足し粘膜が乾いてしまうと異物が侵入するリスクが上がります。 線毛を粘液で潤し、ウイルスなどの異物をスムーズに体外(喉)へ排出できるようにするためにも、こまめに水分を補給し、体内の水分量を保つことが大事です。 また、特に空気が乾燥する冬場には、水分補給とともに、室内の加湿もウイルス対策には効果的です。 部屋の湿度をチェックして、常に適度な湿度(50~60%)を維持することで、風邪やインフルエンザ対策を心がけましょう。

2水分補給のタイミング

ここではおすすめの水分補給のタイミングや頻度などを紹介します。 水分補給をするタイミングは、「喉が渇いたな」と感じた時点では遅く、その時すでに体の水分が不足して脱水状態であると言われています。 また、前述のとおり気づかぬうちにカラダの水分が不足することもあるので、こまめに水分を摂ることが大事です。 水分を補給してから、体内に吸収され粘膜が潤うまでには時間がかかります。 私たちのカラダの約60%を占める水分の量をしっかり保ち、粘膜の潤いを維持し続けるためには、成人が1日に確保したい水分摂取量である約1.5リットルを1日かけて少しずつ分けて飲むことをおすすめします。 特に「人の多い場所に行ったとき」「人と会話をしたとき」「起床時や睡眠前」はいつもより少し多めに水分補給すると良いでしょう。

3効率的な水分補給のポイント

単に、口から水分が入っただけでは、本当に体内に吸収されたとは言えません。 腸から吸収されて、血管の中に入ってはじめて、本当の意味で体内に吸収されたと言えます。 免疫機能を維持するためには、カラダが失った水分をすみやかに回復させ、保持しなくてはなりません。 そのために大切ポイントは、摂取する水分が「体液に近いイオンバランスであること」です。 汗や乾燥などで大量の水分がカラダから排泄されてしまっている状態で、何も含まない水だけを飲んでいると、汗で失った水分と電解質(イオン)の補給はできません。 水だけ飲み続けることで、体液中の水分とイオンのバランスがくずれ、体液の電解質濃度がどんどん薄くなります。 するとカラダは体液が薄くなることを防ごうとして、これ以上水を飲めないように喉の渇きを止め、また過剰な水を尿として排出してしまうのです。その結果、脱水がすすんでしまいます。

水ではなく、体液に近いイオンバランスの飲料を飲めば、体液の電解質濃度は薄まりません。過剰に尿として排出することもないため長時間体内に水分を保持することも出来ます。 すみやかに水分と電解質(イオン)を補給できるだけでなく、長時間にわたって体内を潤すことは免疫システムを維持するためにとても重要なポイントなのです。

4鼻腔粘液線毛輸送機能の維持にはイオン飲料が効果的

水とイオン飲料、摂取するもので鼻腔粘液線毛輸送機能にどのような変化があるのかを見ていきましょう。

鼻腔粘液線毛輸送機能の経時変化

鼻腔粘膜グラフ
分散分析、Dunnettの多重比較検定
出典: Oozawa H, et al. Auris Nasus Larynx. 2012;39:48-52.

健常成人男性14名を対象として、室温23℃、湿度10%の乾燥した人工気象室に入室させ、 4時間経過までの鼻腔粘液線毛輸送機能の変化について、イオン飲料を摂取する、ミネラルウォーターを摂取する、全く摂取しない、の3条件で比較試験を行いました。 鼻腔粘液線毛輸送機能の測定にはサッカリンテストを用いました。 サッカリンテストでは、人工甘味料であるサッカリン顆粒を鼻の粘膜に付着させ、溶け出したサッカリンが鼻腔粘液線毛輸送機能によって輸送され、 咽頭で甘さとして感じるまでの時間(サッカリンタイム)を測定します。 サッカリンタイムが長くなることが、鼻腔粘液線毛輸送機能の低下の指標となります。

人工気象室に入室して2時間後に3条件で比較した結果、イオン飲料を摂取した場合は、サッカリンタイムの変化率は10%以下であり、 何も摂取しなかった場合の約40%と比べて、鼻腔粘液線毛輸送機能の低下が有意に抑制されることを確認しました。 また、ミネラルウォーターを摂取した場合は、サッカリンタイムの変化率は約30%でしたが、何も摂取しなかった場合と比べて、有意な差は認められませんでした。
これらの結果から、イオン飲料による適切な水分摂取でカラダの水分を保つことが、カラダの防御機能のひとつである鼻腔粘液線毛輸送機能を維持するために重要である事が確認されたのです。

監修:酒井リズ智子先生(米国医師 トータル・コンディショニング・コーディネーター)
監修:酒井リズ智子先生(米国医師 トータル・コンディショニング・コーディネーター)