ー 免疫力を下げる生活習慣 ー現代の暮らしと環境

免疫機能に影響を与える生活習慣はいくつか知られていますが、ここではその中でも免疫機能を低下させるリスクのあるものに注目します。

1日頃の運動習慣

適度な運動習慣は、免疫力の維持・向上にとって大切です。しかし、現代の生活環境では、自動車やインターネットなどの普及により、国民の73.9%が「運動不足」と感じています(注1)。
注1:「体力・スポーツに関する世論調査」(内閣府)

2生活リズムの乱れ

夜勤などによる、昼夜逆転の生活による睡眠リズムの乱れはカラダの不調を引き起こします。人間を含む生物は、地球の自転による約24時間周期のリズムが存在し、それをサーカディアンリズムと呼びます(注2)。 サーカディアンリズムによる睡眠・覚醒リズムは自律神経、ホルモンの分泌、免疫や代謝などにも影響を与えるといわれています。

睡眠障害や睡眠不足がつづくと、高血圧や糖尿病、脳卒中や心臓病などを起こしやすいことが知られています(注3)。 これに加えて、大学生を対象とした研究から、睡眠時間が短い学生ほど風邪をひきやすいということが報告されました(注4)。 睡眠不足は、カラダの免疫力にも影響して、感染症の罹患リスクを高めると考えられます。 注2: 「体内時計」(厚生労働省e-ヘルスネット) 注3: 「睡眠と生活習慣病との深い関係」(厚生労働省e-ヘルスネット) 注4: 矢島すみ江ら、名古屋工業大学紀要、2004;55:151-7.

生活リズムの乱れイラスト

3感染症が発生し易い生活環境

ここ数年、世界的にあらゆる抗生物質が効かない「多剤耐性菌」の出現が問題となっています。 米国疾病予防管理センター(CDC)の推計では耐性菌による推定患者数は年間約200万人、死亡者は約2万3000人に及んでおり、特に高齢者や乳幼児では耐性菌の感染リスクが高まります。 記憶に新しい「新型コロナウイルス」「SARSやMARS」「パンデミックインフルエンザ」などの感染拡大は、交通網の発達で多くの人や動植物が簡単に広範囲に移動でき、そのスピードが速まったことなどが背景にあります。
昔と比べて衛生環境が良くなり、雑菌に触れる機会が減っていることも免疫力低下の要因と言われ、日本を含む先進諸国でアレルギー疾患が増えているのも、衛生環境が良くなったことが大きな要因の一つと考えられています。 出典: 「AR Threats Report」(米国疾病予防管理センター)

4睡眠時間の短縮化

私たちのカラダにはウイルスや細菌などの病原体が感染しないような免疫システムが備わっています。 しかし、夜遅くまで活動できるようになった現代社会において、睡眠不足が免疫力低下の一要因となっています。 日本人の平均睡眠時間は男女ともに減少傾向にあります(グラフ1)。 睡眠の乱れによって睡眠に関わるホルモン(メラトニン)が十分に分泌されないと、カラダに活性酸素が増加し、この活性酸素が、がん細胞の増殖などといった悪い影響を引き起こすと考えられているのです。

5食生活の偏り

免疫力は、私たちが日々とる食事によっても支えられています。 免疫細胞や筋肉の材料となるのがタンパク質ですが、このタンパク質の摂取量は1950年代と同じ水準まで減少しているのです(グラフ2)。 また、活性酸素を無毒化する抗酸化物質や免疫機能を司る腸内環境を整えるために欠かせない食物繊維を含む野菜の摂取量も、 昭和40年と令和元年を比べると、一人当たり年間18.1㎏も野菜の摂取量が減っていることが分かります(グラフ3)。

また、厚生労働省が健康の啓発のために定めた「健康日本21」では、野菜を1日350g以上摂取することが推奨されていますが(注5)、男女全年代の平均において、この目標値に達していません。 特に、20代〜50代の働き盛り世代における野菜の平均摂取量は300gを下回っており、普段の食事からの野菜不足が明らかです(注6)。 注5:「健康日本21(第2次)の推進に関する参考資料」(健康日本21) 注6:「平成30年国民健康・栄養調査結果の概要」(厚生労働省)

【グラフ2】
タンパク質の摂取量は1950年代と同水準

タンパク質の摂取量
【出典】
1947~1993年:「国民栄養の現状」(国立健康・栄養研究所) 1994~2002年:「国民栄養調査」
2003年以降:「国民健康・栄養調査」(厚生省/厚生労働省)

食生活の偏りによりタンパク質が不足してしまうと、免疫力の低下につながります。 免疫を強化してくれる抗体やリンパ球とタンパク質との関係が深いことが理由です。細菌やウイルスなどの病原菌から私たちを守ってくれる抗体 "免疫グロブリン"。 その免疫グロブリンの原料はタンパク質です。タンパク質が不足すると十分な量の免疫グロブリンがつくられません。 また、体内に侵入したウイルスなどを撃退してくれる "キラー細胞" というリンパ球は、胸腺(きょうせん)でつくられます。 タンパク質が欠乏すると、胸腺の萎縮が起こると考えられており、キラーT細胞の発達や成熟に悪影響が及びます。 また、タンパク質は筋肉や血管、ホルモンの材料となるので、しっかりと摂ることで健康的な生活にもつながります。

出典: Marcos A, et al. Eur J Clin Nutr. 2003;57:66-9.
監修:新開省二先生(医師・医学博士 女子栄養大学 栄養学部教授)
監修:新開省二先生(医師・医学博士 女子栄養大学 栄養学部教授)