人と微生物の共生

私たちのカラダには、「常在菌」と呼ばれる微生物がたくさん住んでいます。これらの微生物の多くは、私たち人類よりもずっと古い歴史をもっています。 人の免疫は、全ての微生物を排除するのではなく、常在菌と上手に共生しながら、進化の道をたどってきました。 様々な種類の常在菌は腸に多く存在しますが、それ以外にも口や鼻、皮膚や目など、外の世界に接するすべてのカラダの部位に存在しています。

1微生物と共存する生き方

地球上には目に見えない微生物があふれていて、年間約200万トン以上の細菌やウイルス、そして約5500万トンのカビの胞子が地表に降り注いでいます。 そんな環境の中、人の祖先が誕生し、ときに微生物と戦いながらも、彼らと折り合いをつけ、共存・共栄する関係を築いてきました。 私たちの免疫は、有害な微生物やウイルスなどの外敵を排除することによって生き延びるだけでなく、 害のない微生物やカラダに有用な微生物たちと共存する“賢さ”を身に着けながら、地球環境に適応してきたのです。 言い換えれば、人は地球上で最も古い歴史をもつ原始的な微生物たちをカラダの中で“飼い”ながら、共に進化の道を歩んできたのです。

2常在菌はどこからやってくるの?

私たちは母親の胎内にいるときは無菌状態だと言われていますが、この世に生まれた瞬間に、たくさんの微生物に出会います。 母親を始めとする周囲の大人や環境から受け継いだ微生物は、赤ちゃんの体内に入り、数時間のうちに定着し、それぞれが居心地の良い場所に「常在菌」として住み続けることになります。 アメリカの研究者らが、チリの砂漠で発掘された800~1400年前のミイラの腸内細菌を調べてみたところ、 現在アフリカの農村部の人たちがもつ腸内細菌の種類とよく似ていた一方で、都市に住む人たちの腸内細菌の種類は、大きく異なっていることが分かりました。 古い時代には、チリとアフリカという離れた地域でも、人は同じような常在菌を代々継承してきたのですが、食べ物や抗生物質の影響で、現代人に住み着く常在菌の種類がずいぶん入れ替わっているようです。

3私たちと共存する細菌

細菌と聞くと、何となく“悪者”をイメージしがちですが、実は私たちが生きていくために欠かせない細菌がたくさんいます。 例えば皮膚に住んでいる表皮ブドウ球菌、アクネ桿菌などは、汗や皮脂をエサにして酸性の物質を作り出し、皮膚表面に弱酸性のバリアを作り、有害な病原体から私たちを守ってくれています。 ひとつひとつの細菌の大きさは、人のおよそ100万分の1にも満たないとても小さなものですが、カラダの中に住むすべての常在菌を合わせると、その数なんと数百兆個。 これは一人の人間を構成する細胞数の10倍以上という、とてつもない数です。

ウイルスを防御

4腸は細菌の最大の住みか

私たちの腸管には約100~1000兆個の腸内細菌が共存しています。その重さの合計は約1.5キロ以上になると言われています。 種類にして約1000種類におよぶ多くの種類の腸内細菌がひしめきあっています。そんな腸内細菌と人とは “ギブ&テイク”の関係です。 腸内細菌にとって、人の腸の中は、豊富な栄養分や水分、また温度など生きていくためには良い環境なので、都合の良い棲み家となります。 一方、人の側からすると、腸内細菌は、食べ物の消化や吸収を助けてくれ、免疫力を強化してくれる頼もしいパートナーです。 なかでも、ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌は、糖を分解して腸の中を酸性に保つことで腸を元気にしたり、有害な細菌の侵入を阻止して感染症にかかりにくくしてくれます。 もちろん腸内に共存している細菌の全てが健康を保つために良い働きをしているわけではなく、下痢や膨満感などの原因になる、いわゆる悪玉菌と呼ばれる腸内細菌もいます。

また、腸内では大人しくしている腸内細菌でも、便を介して尿道や膀胱に入り込んでしまうと、膀胱炎などのトラブルを引き起こします。 このように、本来いるべきところ以外に侵入した腸内細菌に対しては、私たちのカラダは“異物”として認識し、免疫力を総動員して戦います。

腸内細菌のイラスト

5腸内細菌との上手な付き合い方

腸内細菌は、それぞれにふさわしい場所で、様々な種類の細菌がお互い共存できる様に調整しながら生きています。 しかし、そのバランスは常に変化しており、悪玉菌が増加すれば免疫力の低下につながります。 感染症などのリスクを遠ざけ健康を保つには、運動、休養といった生活習慣を見直し食生活を整えて、腸内環境を適切に維持する必要があります。 ヨーグルトや漬物など、乳酸菌を含む食品を毎日の食事で積極的に摂取するとともに、ストレスのない生活を心がけましょう。

監修:國澤純先生(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所ワクチン・アジュバント研究センター センター長)
監修:國澤純先生(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所ワクチン・アジュバント研究センター センター長)