適切な睡眠時間と免疫

睡眠と免疫力には深い関係があることをご存知ですか?睡眠には「疲労回復」の他に、「免疫機能を保つ」という重要な役割があります。 このページではまず「睡眠時間」について見ていきたいと思います。はたしてどのくらい睡眠をとれば、免疫力をしっかりと働かせることができるのでしょうか。

1適切な睡眠時間

睡眠不足が蓄積すると、がん、糖尿病や高血圧などの生活習慣病、またうつ病や認知症の発症リスクを高めることが明らかになっています。 しかし、単純に睡眠時間を長くすれば良いというわけではありません。米国の大規模調査では1日の睡眠時間の平均が約7時間の人が最も死亡率が低く長寿でした。 短い睡眠が健康にとってリスクというのは容易に想像できますが、8時間を超える睡眠時間の人も死亡リスクは上昇するという結果がでています。

睡眠時間は長くても短くても健康リスクを高める
男女ともに死亡リスクがU字カーブ

睡眠時間の死亡リスク男性
睡眠時間の死亡リスク女性
110万人超の男女を対象に約6年間追跡調査を行った、睡眠時間と死亡リスクの関係をみた米国の研究。 死亡リスクは睡眠時間7時間を1とした時の相対リスク。睡眠時間と死亡リスクの間にはU字カーブが見られた。
出典: Kripke DF, et al. Arch Gen Psychiatry. 2002;59:131-6.

睡眠時間が短いと風邪の発症リスクが増加する

睡眠時間と風邪
18~55歳の健康な男女164名の7日間の睡眠時間を記録し、1日あたりの平均睡眠時間でグループ分けを行った。その後、風邪ウイルスを鼻に投与し、風邪の発症率を比べた。
出典: Prather AA, et al. Sleep. 2015;38:1353-9.

2睡眠時間と唾液中の免疫物質 IgA の関係

睡眠時間と唾液中の IgA の関係を見た研究では、睡眠が5時間以下で時間が短いほど唾液中の IgA の分泌量が低下していました。 一方、同じ研究で9時間を超えた場合でも、唾液中の IgA 分泌量が下がる傾向にありました。
205名の健康な大学生(男性110名、女性95名)を対象に、普段の睡眠時間を調査。 1日あたりの睡眠時間が5時間以下の「短時間睡眠」、6~8時間の「最適睡眠時間」、9時間以上の「長時間睡眠」のグループに分類。 参加者の唾液に含まれる免疫物質の量を、各グループで比較した。
出典: 岡村尚昌ら、行動医学研究、2010;15:33-40.

睡眠時間とIgAの関係

3粘膜免疫の主役 IgA が低下すると感染症のリスクが高まる

IgAイメージイラスト

IgA の特徴 】

  • 細菌やウイルスの侵入を防ぐ
  • 抗原特異性が低い(反応する異物の種類が多い)
  • 主に全身の粘膜で活躍する

全身の粘膜には細菌やウイルスなどの異物が体内に侵入しないように働いている免疫機能があり、粘膜免疫と呼ばれています。その粘膜免疫で主に活躍している免疫物質があります。 それが「 IgA 」という抗体です。 抗体とは、体内に侵入してきた異物を捕まえて無力化するように働く免疫物質のことで、タンパク質でできており、免疫グロブリンの一種です。

IgA は、特定のウイルスや細菌だけに反応するのではなく、 様々な種類の病原体に反応する(くっつく)という守備範囲の広さが特徴で、IgA が低下すると感染症などの病気にかかりやすくなることが判っています。 このことは上気道感染症(風邪)の発症と唾液中の IgA 濃度の関係を調べた研究でも確かめられています。

IgA が低下すると
上気道感染症(風邪)に

IgAと風邪
アメリカズカップのヨットレース選手の男性38人を対象に、トレーニング期間の50週間にわたって毎週、唾液サンプルを採取。 その結果、上気道感染症を発症する3週間前から唾液 IgA レベルが低下し始め、発症時は有意に低下した。
出典: Neville V, et al. Med Sci Sports Exerc. 2008;40:1228-36.

睡眠時間と免疫力、そして細菌やウィルスの侵入を防ぐ IgA はそれぞれ関連があり、 IgA の活動を維持するためには7時間前後の睡眠の確保すること。 長すぎても、短すぎても唾液中の IgA は低下してしまいます。 適切な睡眠で免疫力を保ち、感染症に備えましょう。

監修:中田光紀先生(医学博士 国際医療福祉大学 赤坂心理・医療福祉マネジメント学部・学部長 心理学科長 教授)
監修:中田光紀先生(医学博士 国際医療福祉大学 赤坂心理・医療福祉マネジメント学部・学部長 心理学科長 教授)