乳酸菌と免疫について

漬物や味噌、醤油などの発酵食品に多く含まれる乳酸菌は、私たちの健康を支えてきました。 これまでごく当たり前に、口にしてきた乳酸菌ですが、実は私たちの腸に秘められた免疫システムの優秀な相棒であることが最近の研究でわかっています。 乳酸菌と腸が織りなす、カラダの防御システムの秘密をのぞいてみましょう。

1腸は全身の免疫の司令塔

乳酸菌の棲み家である「腸」といえば、一番に思いつくのは食べ物を「消化・吸収」する働きです。 しかし腸には、消化器官という機能だけでなく、ウイルスや病原体から全身を守る、免疫システムの司令塔としての働きが秘められていることがわかってきました。 事実、腸の中には、カラダ全体の過半数を占める免疫細胞が集結しており、まさに最大の免疫器官だと言えますが、腸にこれだけの免疫細胞が集まっているのには理由があるのです。 腸はカラダの「内なる外」と表現されます。 これは人のカラダを口から肛門まで1本の管と考えた時、消化管の内側は体内にありながら、外気に触れているという意味で使われます。 外部の環境と接している腸は細菌やウイルスといった異物の侵入を阻止する使命を果たす、まさに免疫の最前線なのです。 胃で分解された食べ物は、小腸の粘膜に並ぶ「絨毛(じゅうもう)」を介して初めてカラダの内部に取り込まれます。 このとき、食べ物と一緒に有害な異物が侵入しようとしたときは、小腸粘膜の粘液に存在するIgA抗体や抗菌物質が、怪しい異物を捕まえたり不活化したりして排除します。 さらに、腸の繊毛と繊毛の隙間には「パイエル板」と呼ばれる、いわば免疫の門番というべき組織があり、 このパイエル板には、樹状細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞に加え、リンパ球(T細胞、B細胞)という獲得免疫を担当している精鋭部隊が集合し、 侵入者を待ち構えるという、驚くべき独自の免疫システムが備わっているのです。

IgAの図解

病原体が入ってくると、パイエル板はそれらを自分の中に抱え込んで「異物が侵入した」という情報を免疫細胞に伝えます。 そして、病原体を無力化させる抗体「 IgA 」をたくさん作って全身の免疫を活性化したり、新たな免疫を獲得するため、免疫細胞に学習させたりします。 このような腸独自の免疫システムを「腸管免疫」といい、 この新たな学習をする過程で免疫細胞は腸粘膜の防衛を強化するだけでなく、リンパや血流の流れに乗って全身へと送り出され、全身の免疫力を高めるのです。

腸の外へと派遣された免疫細胞は、再び司令塔である腸にもどり、腸粘膜の免疫力を強化します。 このように、免疫細胞が刺激を受けた後、全身を巡り、再び腸管組織に戻ってくることを「ホーミング」作用と言います。

IgAの循環

2乳酸菌と腸管免疫のコラボレーション

ヒトの腸管には、100~1000兆個の腸内細菌が住み着いており、顕微鏡で観察するとまるで植物の群衆(お花畑)のようであることから「腸内フローラ」と呼ばれています。 腸内細菌は、食べ物の消化・吸収をサポートするだけではなく、腸管免疫の働きには欠かせないパートナーであることがわかっています。
腸管免疫では、病原体を無力化する IgA を、粘膜下の免疫細胞がたくさん作り出すことで免疫を強化していますが、 腸内細菌と免疫の関係に関する研究で、腸内細菌がいない無菌マウスの腸内では、通常のマウスに比べて IgA の量が少ないことがわかったのです。 詳しく調べたところ、腸内細菌の1種である Lactiplantibacillus pentosus ONRICb0240 が、 腸内に入り腸粘膜の免疫細胞を活性化することが最新の研究で発見されました。 さらに、Lactiplantibacillus pentosus ONRICb0240 によって活性化された腸管免疫の情報が全身に伝わり、 腸から遠く離れた口の中の IgA の量を増やすという事実も確認されています。 病原菌をやっつける優れた腸管免疫のチカラは、まさに乳酸菌とのコラボレーションによって生み出されているのです。

成人女性が乳酸菌ONRICb0240を摂取すると唾液中の IgA が増加

唾液中のIgA増加
30人の健康な女性を、乳酸菌ONRICb0240摂取群(20億個・200億個)、水摂取(プラセボ)群に分け、21日間摂取。 その結果、唾液中のIgA増加量は乳酸菌ONRICb0240摂取群で有意に上昇した。
出典: Kishi K et al. Jpn J Lactic Acid Bact.2006;17:132–7.

3乳酸菌を摂ることができる食べ物

免疫力を高めることに役立つ乳酸菌は、私たちの食卓で手軽に取り入れることができます。 乳酸菌のもつ「発酵」のプロセスは、酸味や旨味を生み出し、雑菌の増殖を防いで保存性を高める働きがあるので、日本はもちろん、世界中の様々な食品に活用されてきました。
乳酸菌とは、糖類を分解して乳酸をつくる細菌の総称で、これまでに約300種類の乳酸菌が発見されており、発見された場所の違いによって、動物由来のものと植物由来のものに分けられます。

植物由来の乳酸菌を含む食べ物
ぬか漬け、キムチ、ザワークラウト、味噌、醤油、清酒など
動物由来の乳酸菌を含む食べ物
ヨーグルト、チーズ、発酵バター、明太子など

乳酸菌は、毎日欠かさず食べることによって健康効果があらわれてきます。 摂るのをやめてしまうと効果が薄れていくので、できるだけ継続して摂取するのがおすすめです。 一度にたくさんではなく、毎日少なくとも一品、乳酸菌を含む食品を食べるよう習慣づけることで、日々変化する腸内環境を良好に保ちましょう。

監修:新開省二先生(医師・医学博士 女子栄養大学 栄養学部教授)
監修:新開省二先生(医師・医学博士 女子栄養大学 栄養学部教授)