ー 免疫力を下げる生活習慣 ーストレス

食事も睡眠もしっかりとっているし大丈夫!と思っていても免疫力が低下していることがあります。 そもそもストレスとは外部から刺激を受けた時の緊張状態のことです。 多くの人が抱える「ストレス」も免疫力を低下させる要因の一つです。日常の中で遭遇するストレスが、私たちの免疫に及ぼす影響についてみていきましょう。

1慢性的なストレスが免疫力を低下させる

鼻、口、呼吸器などの粘膜は、IgAという全身の粘膜で働く免疫物質を分泌し、ウイルスや細菌などの異物が体内に侵入することから私たちのカラダを守っています。 ところが、強いストレスを受け続けると自律神経のバランスが乱れて粘膜からのIgAの分泌量が低下し、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなってしまいます。 一口にストレスといっても、物理的なストレスや精神的なストレスなど様々ですが、現代人の多くが直面しやすいストレスと言えば、勉強や仕事に関係する日々のストレスではないでしょうか。 実際に、慢性的なストレスになりうる勉強や仕事が、免疫に及ぼす影響について調べた研究があります。 歯学部に入学した新入生を対象に、学業にともなう精神的ストレスと唾液中のIgAの分泌量との関係を1年間にわたって調査した結果、 試験などがあって一時的に強いストレスを受ける時期は、試験のない時期に比べて、唾液中のIgAが低下することが分かったのです。

【出典】
Teixeira R R, et al. PLoS One. 2015;10:e0119025.
Afrisham R, et al. Psychiatry Investig. 2016;13:637-43.
Bosch J A et al. Psychophysiology. 2001;38:836-46.
Gonneke W, et al. Psychophysiology. 2002;39:222-8.

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また、41人の看護師に対し、職業上の心理的ストレスと免疫の関係を調べた研究によると、意思決定や作業管理などの精神的なストレスが高まる仕事によって、 血中のストレスホルモンの濃度が上昇し、唾液中のIgAが低下していることが報告されています(注1)。

マウスを使った実験では、このような慢性的なストレスが腸内細菌のバランスを変化させ、腸粘膜の免疫の乱れを引き起こすことも明らかになっています。 慢性的なストレスを与えられ、細菌叢のバランスを崩したマウスでは、大腸炎の症状が強く出ることが分かりました。 このことから、ストレスによる腸疾患の発症には、腸内細菌叢の乱れも関与していると考えられています(注2)。 注1: Hyung S Y, et al. Front Public Health. 2014;13,2:157.
注2: Watanabe Y, et al. PLoS One. 2016;11:e0150559.

2急性的なストレスも免疫力が低下する

免疫に影響を及ぼすのは、日々の慢性的なストレスだけではありません。 一定時間難しい課題に取り組んだり、「寒さ・冷たさ」などの物理的なストレスをほんのわずかな時間受けただけでも、免疫力が低下することが分かっています。 下の図は、24名の大学生を対象に「10分間、暗算課題に取り組む」という急性の心理的ストレス、または「10分間、10℃の冷水に右手を手首まで浸ける」という急性の寒冷ストレスを負荷し、免疫への影響を調べた試験結果です。 暗算課題による心理的ストレスでは、課題の開始直後に、唾液中のIgA分泌率が著しく低下しました。 一方、寒冷ストレスでは、冷水に手を浸す課題の直後から唾液中のIgA分泌率が低下し続け、 課題が終了した後も、依然としてIgAが低い状態が続きました(グラフ)。 10分間という短い間でも、ストレスを受けると免疫力が下がってしまうのです。

急性的なストレスもIgA分泌が低下する

急なストレスによりIgAが低下する
3分間採取した際の1分当たりの数値
出典: 藤原ら、生理心理学と精神生理学、2011;29:193-203.

3女性のホルモンバランスと免疫

女性は月経前症候群(PMS)によるストレスにも要注意です。PMSとは、月経がはじまる3~10日前から起きる心やカラダの不調のことで、頭痛や吐き気、イライラなどの症状が出現します。 PMS女性(13名)とPMSではない女性(11名)の唾液中のIgAを測定し、 「月経前、月経中、月経後」で比較すると、PMS女性では月経後のIgAが低下していました(グラフ)。 PMSの症状があった期間は、唾液中のストレスホルモンの濃度も上昇していたことから、PMS女性では、月経前の心身への負担が慢性的なストレスとなり、免疫力を低下させることが分かりました。

月経後は唾液中IgA分泌量が低下する

月経周期とIgAの変化
出典: Watanabe k, et al. Nurs Midwifery Stud. 2015;4:e24795. を改変

仕事や学業による慢性的なストレスや、物理的・心理的な急性ストレス、温度やホルモンバランスの変化などによって、免疫システムに悪影響を及ぼします。 ストレスを感じたら、意識的に休息したり、リフレッシュできることを取り入れるなどのセルフケアを行い、免疫力を保てるように心がけましょう。

監修:新開省二先生(医師・医学博士 女子栄養大学 栄養学部教授)
監修:新開省二先生(医師・医学博士 女子栄養大学 栄養学部教授)