栄養のバランスと免疫力

カラダを健康な状態に保ち、感染症にかからないためには、免疫力を高める食材を積極的に取り入れながら、日頃から栄養バランスの良い食事を摂ることが必要です。

1健康のための「バランスの良い食事」とは

厚生労働省は、日本人の理想的な食事の栄養バランスとして、 1日に必要なエネルギーの13~20%をタンパク質から、20~30%を脂質から、50~65%を炭水化物からとることを推奨しています。
免疫抗体の材料となるタンパク質をしっかり摂るよう心掛け、さらに免疫力を十分活用するためにはビタミンやミネラル、食物繊維などの栄養素も毎日の食事から摂取する必要があります。 この理想の栄養バランスを目指して、下記のような主菜、副菜、主食のそろった食事を習慣づけ、免疫細胞が必要とする栄養素を手に入れましょう。

  • 肉や魚、卵や大豆を使ったタンパク質豊富な主菜
  • 緑黄色野菜や豆、海藻類を使ったビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富な副菜
  • 主食となる米やパン、麺類など

2いま日本人に不足しがちな栄養素

厚生労働省は、健康増進法に基づき「日本人の食事摂取基準」を発表しています。 これは1日に必要な栄養素の基準を示すもので、栄養不足や生活習慣病などの予防を目的にしています。 国が定める基準値をめざして各栄養素を摂ることが大切です。ところが毎年行なわれている「国民健康・栄養調査」結果によると、幅広い世代でビタミンやミネラル等の栄養素の摂取量が足りていません。 特に20代女性では、19種のビタミン・ミネラル等のうち、14種類、20代男性でも11種類が不足しています。 中でもビタミンA、C、D、カルシウムの摂取量は、男女ともに基準値を大きく下回っており、また、食物繊維も同様に男女共ほとんどの世代で摂取不足であることが明らかになっています。

野菜や果物を食べることは、ビタミン・ミネラル等の代表的な栄養素だけでなく、免疫を助ける抗酸化物質を摂取するという観点からも重要です。 例えば、植物由来の抗酸化物質ポリフェノールの一種であるアントシアニンは、免疫物質 IgA を増やす働きがあることが明らかになっています。 通常、私たちは、運動などの酸化ストレスを受けると、一時的に IgA の分泌量が低下し、粘膜免疫の働きが弱まってしまいますが、 アントシアニンを豊富に含むニュージーランドカシスのエキスを5週間毎日摂り続けることで、 酸化ストレスを受けた後でも、唾液中の IgA 分泌量が増加し粘膜免疫を維持できることが分かりました(図)。 アントシアニンはカシスだけでなくブルーベリーやぶどう、赤紫蘇、紫キャベツ、ナスなどにも含まれます。 忙しい現代人にとって、不足しがちな野菜・果物ですが、ストレスに負けずに免疫力を維持するためには、日々の食事に積極的に取り入れることが大切です。

唾液中IgA分泌量
mean ± SEM *p < 0.05

36名の健康な男女に、30分間運動をさせ、酸化ストレスを誘発した時の唾液中 IgA の量を調べた。 体重1キロあたり3.2 mgのアントシアニンを含むニュージーランドカシスを5週間毎日摂取した群(ニュージーランドカシス群)と、プラセボ群を比較したところ、 試験開始時の運動負荷試験では、両郡の IgA 分泌量に差はなかったが、 摂取開始から5週間後の試験では、ニュージーランドカシス群の唾液中 IgA 分泌量が約40%増加していた。 出典: Hurst R D, et al. Front Nutr. 2020;7:16.

3理想の食事メニュー例

栄養バランスの良い理想の食事メニューをみてみましょう。主菜は、良質なタンパク質(必須アミノ酸をバランスよく摂ることのできるもの)を多く含む肉や魚を使って、タンパク質やミネラルを補いましょう。
副菜は、旬の緑黄色野菜を中心に、淡色野菜や海藻、きのこ、芋類など、できるだけ多品目の食材を使ったミネラル・食物繊維たっぷりのお惣菜がお勧めです。
ご飯・パンなどの主食においても、ミネラルや食物繊維が豊富な玄米や全粒粉のパンなどを選ぶようにします。 その他、味噌やヨーグルトなどの発酵食品、カルシウムを補う牛乳、ビタミンやミネラルを含む果物を組み合わせると良いでしょう。
出典: 免疫力を高める食材辞典、株式会社 学研プラス、2020、pp3-5、P12-7

バランスのよい食事

4免疫力を高める食材

免疫力をアップさせるためには、免疫抗体の材料となるタンパク質をしっかりと摂取することに加え、免疫の最前線である粘膜の働きを強化し、 免疫力を活性化させるビタミン・ミネラル類や腸内細菌、食物繊維などを豊富に含む食材を積極的に摂ることが大切です。免疫力を高める食材を日々の献立の中に取り入れて、免疫力をアップさせましょう。

粘膜の働きを強化する食材

レバー、ウナギ、モロヘイヤ、かぼちゃ、ほうれん草、ニンジンなどは、免疫の最前線である粘膜の働きを高めるために必要なビタミンAを豊富に含んでいます。 また、味噌、ヨーグルト、漬物、納豆などの発酵食品と、食物繊維に富む野菜や海藻類を一緒に摂取することで、腸内環境を整えて腸の免疫細胞を活性化します。

自然免疫をサポートする食材

レバー、ほうれん草、ブロッコリー、わかめ、枝豆などは葉酸を豊富に含む食材です。 葉酸は自然免疫を担当しているNK細胞の働きをサポートし、身体に侵入する様々な外的をブロックする力を強化します。

獲得免疫をサポートする食材

肉類、赤身の魚は、T細胞やB細胞など、獲得免疫を担当する細胞の合成に必要なビタミンB6を豊富に含んでいます。 マグロ、カツオ、サケ、貝類、青身魚などは免疫細胞の合成に関わるアミノ酸、タンパク質、ビタミンBと、免疫細胞を活性化させる ビタミンD、亜鉛、セレンなどの栄養素を併せ持っている優秀な食材です。

抗酸化作用を強化する食材

ブロッコリー、菜の花、柑橘類はビタミンCを豊富に含む食材です。 ビタミンCは、抗酸化作用を持つ栄養素であり、免疫細胞が病原体を殺すときに発生する活性酸素から身体の細胞を守る働きがあります。 また、免疫細胞を助ける働きも兼ね備えているので、外敵に負けないカラダつくりに役立ちます。

毎日の食事バランスを見直すことはもちろんですが、免疫力を高める食材を取り入れる様工夫し体調管理を心がけましょう。

【出典】
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監修:酒井リズ智子先生(米国医師 トータル・コンディショニング・コーディネーター)
監修:酒井リズ智子先生(米国医師 トータル・コンディショニング・コーディネーター)