Otsuka People Talk

社員が語る

2018年2月

新薬研究部門 フェロー

1勝3敗。失敗経験をとことん詰めて、この大きな1勝は生まれた。

「一度失敗したものを、もう一度。」エビリファイの研究開発に一から携わる。その経験から学んだものを社員が語る。

私は今、1勝3敗なんです

それまで有効な薬剤がなかった症状にも効果を発揮し、統合失調症の治療を大きく前進させた新薬『エビリファイ』。2002年にアメリカで販売が始まり、現在では世界45カ国以上で販売されている、大塚製薬を代表する医薬品の1つである。
その『エビリファイ』の開発で中心的な役割を果たしたのが、菊地哲朗フェロー。
仏プリ・ガリアン賞や日本薬学会創薬科学賞など、革新的な創薬に与えられる賞を受賞し、技術的にも高い評価を得る『エビリファイ』だが、菊地フェロー曰く、これで「1勝3敗」。3つの失敗を経て、この大きな1勝は生まれた。

失敗は許されない。でも、とことん詰めたのなら失敗も仕方がない。

大塚製薬は1980年、統合失調症への効果が期待される化合物、OPC-4392の合成に成功した。菊地が入社したのがこの年で、すぐに4392開発チームの一員となり、3年ほど後には基礎研究面のプロダクトマネージャーを任される。そして臨床試験へ進んで、フェーズⅠ、フェーズⅡ――。製造販売の許可を求める直前のフェーズⅢまで進んだのだが、結局、申請は行われなかった。『エビリファイ』と同じような、既存薬では効き目の少なかった症状への効果が認められたものの、いくつかの課題を解消しきれなかったのだ。

「臨床試験に参加した何人もの医師から"非常に使いにくい薬だけれど、コントロールはできる。だから何とか残してくれ"と言われ、ぎりぎりまで開発を続けました。しかし臨床効果を立証できない部分が残り、諦めざるを得ませんでした」 このときの経験を今、菊地は「あそこまで詰めて、それで失敗したのだから仕方がない。そう理解しています」と話す。そしてこの経験が、『エビリファイ』の開発で生きることになる。

自分に分からなければ
世界中を探して専門家の意見を聞く

OPC-4392の後、2つの新薬の開発に携わるがいずれも上市には至らず苦い思いが続くものの、やがて菊地はOPC-14597を手にする。後に『エビリファイ』として製品化される化合物である。 「OPC-4392の特長を活かすにはどうすれば良いかを色々考え、ある仮説を立てました。そのような化合物ができるかどうかはまったく分からなかったのですが、幸いにもさほどの時間を待たず、合成責任者の大城靖男さんが成功してくれました。そして私の方で生物活性を比較した結果、間違いなく4392と同等の作用があり、4392にはなかった作用も併せ持つことが確認できたんです」

しかしその先、臨床試験に入ってからの苦難は多かった。とくに安全性の証明に関しては次々に課題が押し寄せた。
「1つの安全性を証明すると、また違う安全性の証明が必要になる。ただ今回は4392の開発で得た知識もあるし、安全性担当の研究者の皆さんと一緒に、自分達に分からなければ世界中から専門家を探して意見を聞き、1つひとつ課題を乗り越えました」
社外の専門会社に委託した試験でも、疑問点があれば自ら乗り込んで徹底的に調べる。そんな意気込みで難題をクリアしていった。

そして「成功体験がある人の失敗はもっと生かされる」

菊地は言う。
「成功するような条件がそろっていても、必ずしも成功するとは限らない。だからこそ、失敗したらなぜ失敗したのかを徹底的に分析して、それを次に生かすんです。1つでも成功体験があると次の開発では、もう難しいのか、まだ可能性があるのか、急ぐべきか慎重に進めるべきか、といったことが感覚的にわかるようになるんです。これは成功体験のある人とない人との、ものすごく大きな違いです」
『エビリファイ』はある意味、失敗したOPC-4392の改良型だ。周囲は多分、うまくいかないと思っていただろうし、開発の優先順位も低いところから始まった。
「それは当然で、一度失敗したものを、もう一度やらせてくれるなんて普通はあり得ないですから。それだけでも私は恵まれていたと思っているし、大塚製薬だからこそ許してくれたのではないかと思います」