ヒトアディポネクチンELISAキット
開発の経緯及び特徴
アディポネクチンは、1996年に当時の大阪大学医学部第二内科、松澤らのグループにより脂肪組織中に特異的に発現する遺伝子apM1(adipose most abundant gene transcript)として新たに同定されたサイトカイン(アディポサイトカイン)であり、244個のアミノ酸より成る分泌蛋白です。血中では多量体を形成し、VIII・X型コラーゲンや補体のC1qと相同性の高い球状構造を有することが報告されています。近年、アディポネクチンは様々な生理活性を有することが報告され、特に平滑筋細胞の増殖を抑制することや単球の内皮細胞への接着を抑制することから、動脈硬化の抑制効果が期待されています。さらに、マウスにおけるアディポネクチン投与実験では、アディポネクチンを投与することによって、糖尿病が改善することが見いだされました。ヒトでのアディポネクチンの血中濃度は血清1mL あたり数μg 存在することが知られており、その低下と肥満や糖尿病及び動脈硬化との関連が報告されています。
本キットは、松澤らとの共同研究により開発されたヒトアディポネクチンに特異的な酵素免疫測定法(ELISA 法)によるものであり、標準品にはリコンビナントヒトアディポネクチンを用いています。本キットは、ヒト血清又は血漿や脂肪細胞抽出液又は培養上清中のアディポネクチンを特異的に精度よく簡便に測定することが可能です。
- ※本キットは研究用試薬であり、疾病の診断若しくはその補助の目的で使用することはできません。
キット構成
測定方法
- 1必要器具、機器等
- 1メスシリンダー
- 2メスピペット
- 3マイクロピペット及びチップ
- 4プレートウォッシャー
- 5ペーパータオル
- 6プレートリーダー(測定波長:450nm)
- 7ヒートブロック等
- 8マイクロチューブ等(容量1.5mL以上の密閉可能な容器)
- 2試薬の調製法・保存法
- 1洗浄液
洗浄用原液全量(40mL)に精製水を960mLの割合で混和し調製する。洗浄用原液に結晶が析出している場合は、加温して溶解後に調製し、調製後は2~8℃で保存する。 - 2検体希釈液
検体希釈用原液全量(50mL)に精製水を200mLの割合で混和し調製する。調製後は2~8℃で保存する。 - 3標準液
標準品12.0ng/mL を検体希釈液で2倍段階希釈して、6.0ng/mL、3.0ng/mL、1.5ng/mL、0.75ng/mL、0.375ng/mLの濃度の標準液を調製する。なお、標準液12.0ng/mLは標準品12.0ng/mLを、0ng/mLは検体希釈液を使用する。 - 4酵素標識抗体液
酵素標識抗体希釈液 12mLに酵素標識抗体原液を60μLの割合で混和し、必要量調製する。第2反応の直前に調製し、速やかに使用する。 - 5基質液
基質液B 6mLに基質液Aを6mLの割合で混和し、必要量調製する。発色反応の直前に調製し、速やかに使用する。基質液Aは必要量採取後直ちにキャップをして2~8℃で保存する。 - 6検体前処理液
検体前処理液に結晶が析出している場合は、泡立てないように加温して溶解後に使用する。
- 1洗浄液
- 3測定操作法
1.感度試験
標準液12.0ng/mLの吸光度は1.0以上を示した。
2.再現性試験
自社施設において、2種類の濃度の検体を同時に4回測定したとき、変動係数は10%未満であった。自社施設において、2種類の濃度の検体を6回繰り返して測定したとき、変動係数は10%未満であった。
3.測定範囲
0.375ng/mL~12.0ng/mLのアディポネクチンを測定することができる。また、自社施設において、最小検出限界は23.4pg/mLであった。
本キットの有効期間は製造日より12ヵ月間です。なお、使用期限はキットの外箱に表示してあります。必ず2~8℃で保存してください。
4回までの分割使用が可能です。残りの構成試薬は密閉して2~8℃で保存してください。(分割使用の場合は、プレートシールは必要分を切り取り使用してください。)
抗体プレート以外は、同一ロットの構成試薬をプールして使用することが可能ですが、ロットの異なるキットを組み合わせて使用することはできません。
必ず各構成試薬を20~30℃に戻してから使用してください。
ヒト血清又は血漿や脂肪細胞抽出液又は培養上清です。
健常人3名で検討した結果、血清およびヘパリン血漿、EDTA血漿間では顕著な差は認められませんでした。クエン酸血漿では値が低目に出る傾向があるため使用できません。また、全血も使用できません。
必ず凍結保存(-70℃以下が望ましい)してください。
2種類の値の異なる血清を用い、未処理(原血清)、前処理済100倍希釈、最終5100倍希釈の状態で冷蔵安定性の評価を行ないました。未処理血清および前処理済5100倍希釈血清は冷蔵状態でも7日間は測定値に変動を認めませんでしたが、前処理済100倍希釈血清は徐々に測定値が低下する傾向を示していますので、加熱調製後は速やかに5100倍まで希釈してください。いずれにしてもできる限り凍結保存してください。
未処理血清および前処理済5100倍希釈血清は室温状態でも8時間は測定値に変動を認めませんでした。前処理済100倍希釈血清は、徐々に測定値が低下する傾向を示していますので、加熱調製後は速やかに5100倍まで希釈してください。いずれにしてもできる限り凍結保存してください。
未処理(原血清)、前処理済100倍希釈、最終5100倍希釈の何れの検体も、5回までの凍結融解で測定値の変動は認められませんでした。
検体の測定には必ず前処理が必要です。
検体の前処理は、ヒートブロック、水浴加温のいずれで行ってもかまいません。
ヒートブロックを使用し、100℃の加熱を0~20分間行った結果、1分間以上の加熱でほぼ同じ測定結果が得られました。
ヒートブロックを使用し、80~100℃の加熱を5分間行った結果、この温度範囲内でほぼ同じ測定結果が得られました。
- *なお細胞抽出用緩衝液 として10mM HEPES, 1mM EDTA, 1% NP-40, 100mM NaF, 10mM β-glycerophosphate, 1mM NaVO4, 20μg/mL PMSF, 10μg/mL Aprotine(pH7.4)を使用しました。本抽出用緩衝液で細胞を超音波破砕後、その遠心上清を測定に使用します。なお検討に使用した細胞抽出液の蛋白濃度は2mg/mLでした。
前処理後、最終5100倍に希釈した血清を用い、検体希釈液でさらに希釈後測定してください。検体中のアディポネクチン濃度は、実測値に希釈倍率を乗じて算出してください。
7種の値の異なる血清検体を用いてインキュベーション温度の影響を検討した結果、反応温度依存的な吸光度の変動が確認されましたが、下図に示すように20℃~30℃間ではほぼ同じ測定値が得られることが確認されました。
標準曲線は、横軸に標準液の濃度を、縦軸に実質吸光度(各検体の吸光度から0ng/mLの吸光度を差し引いた値)をプロットし、両対数変換の二次回帰等を用いることにより作成します。
0.375~12.0ng/mLのアディポネクチンを測定することが可能です。また自社施設における最小検出限界(Mann-WhitneyのU検定による有意差検定)は23.4pg/mLでしたので、必要に応じ標準液の希釈系列を延長し、低濃度領域を測定することも可能です。
2種類の管理試料(H、L)を同時に8回測定することで同時再現性試験としました。 また同じ試料を6回繰り返して測定することで測定間再現性試験としました。さらに4名の異なる測定者により測定者間再現性試験を行ったとき、以下に示すように全ての試験の変動係数(CV)が10%以下と良好な結果を示しました。
濃度の異なる4種類の検体にヒトリコンビナントアディポネクチンを添加後、アディポネクチン濃度を測定し回収率の評価を行いました。その結果、以下に示すように良好な結果を得られました。
標準操作法に基づき前処理を行った3種類の5100倍希釈血清を、検体希釈液を用いてさらに2倍、4倍希釈後測定した結果、以下に示すように良好な希釈結果が得られました。
リコンビナントマウスアディポネクチンおよび前処理操作を行った各種動物血清を本キットで測定した結果、以下に示すように320ng/mLまでのマウスアディポネクチンおよび、各種動物血清には交差反応性は、認められませんでした。
固相抗体として使用しているモノクローナル抗体のエピトープ解析を実施した結果、N末端側を認識していることが判明しました。よって本ELISAキットはGlobularドメイン蛋白を検出できないものと推察しています。(社内検討結果)
前処理液中の成分が十分に溶解しておらず正常に反応していないため、サンプルに白濁沈殿が生じたと考えられます。 前処理液に含まれる成分は冷蔵下では十分に溶解しません。 使用前に前処理液を室温まで戻して撹拌し、前処理液の成分を十分に溶解させてから使用してください。