大塚製薬株式会社

医療関連事業
2025年6月6日

IgA腎症治療薬「シベプレンリマブ」
欧州腎臓学会(ERA)においてフェーズ3試験の良好な結果を発表

  • 大塚製薬とOPDCは、欧州腎臓学会(ERA)でシベプレンリマブのフェーズ3(VISIONARY)試験の中間解析結果を発表した。シベプレンリマブ投与9ヵ月後の24時間尿におけるuPCR(尿蛋白/クレアチニン比)のプラセボ群と比較した変化率は、統計学的に有意かつ臨床的に意義のある51.2%(P<0.0001)の減少を示した
  • シベプレンリマブの安全性プロファイルは良好で、これまで報告されたデータと一致していた
  • IgA腎症は、進行性の自己免疫性慢性腎臓病であり、現在の標準治療では多くの患者さんが生涯のうちに末期腎不全に至る可能性がある
  • シベプレンリマブは、米国FDAに生物製剤承認申請(BLA)が受理され、優先審査の指定を受けている。FDAによる審査終了目標日(PDUFA date)は2025年11月28日

大塚製薬株式会社(本社:東京都、代表取締役社長:井上眞、以下「大塚製薬」)と米国子会社であるOtsuka Pharmaceutical Development & Commercialization, Inc.(所在地:米国ニュージャージー州・プリンストン、以下「OPDC」)は、成人のIgA腎症の治療薬として開発するシベプレンリマブ(一般名)のフェーズ3(VISIONARY)試験(NCT05248646)の中間解析結果を、6月6日(現地時間)、オーストリアのウィーンで開催された欧州腎臓学会(ERA)で発表しましたので、お知らせします。

シベプレンリマブ投与9ヵ月後の24時間尿におけるuPCR(尿蛋白/クレアチニン比)のプラセボ群と比較した変化率は、統計的に有意かつ臨床的に意義のある51.2%(P<0.0001)の減少を示しました1。タンパク尿の減少は、腎不全への進行を遅らせることと相関があるとされる代替マーカーであり、IgA腎症の臨床試験において迅速承認を支持するエンドポイントとして使用されています2
シベプレンリマブの安全性プロファイルは良好で、これまで報告されたデータと一致していることが示されました1。本試験において有害事象(TEAE)が認められた患者さんの割合は、シベプレンリマブ群では76.3%、プラセボ群では84.5%でした1。重篤な有害事象の発現率は、シベプレンリマブ群で3.9%、プラセボ群で5.4%でした。

シベプレンリマブは、IgA腎症の発症と進行において重要な役割を果たしているAPRIL(A Proliferation Inducing Ligand)の作用を選択的に阻害することで、糖鎖欠損IgA1(Gd-IgA1)の産生を抑制します。これにより、IgA腎症の病態形成における4-hitプロセスである ①Gd-IgA1の産生、②Gd-IgA1に対する自己抗体の産生、③免疫複合体の形成、④免疫複合体の糸球体メサンギウムへの沈着を抑制する新たな治療となる可能性があります3,4,5,6。シベプレンリマブは、4週ごとに自己投与が可能な単回投与のプレフィルドシリンジ(薬剤充てん済み注射器)製剤で、患者さんが在宅投与できる利便性を提供します。本年3月にシベプレンリマブの生物学的製剤承認申請(Biologic License Application:BLA)が米国食品医薬品局(FDA)に提出され、5月にはFDAから優先審査指定を受領し、審査終了目標日(PDUFA date)は2025年11月28日に設定されました。

OPDCの上級副社長兼医学責任者John Krausは、「シベプレンリマブの可能性には大きな期待が寄せられており、私たちは、この研究に関わるすべての患者さんや研究者の皆様に感謝しています。uPCRは将来の病気の進行や回復の見通しを左右する重要な指標であり、今回の中間解析結果は、進行性かつ治療が難しい腎疾患に対する新たな治療法の開発においてAPRILを標的とすることが、有効かつ安全なアプローチになりえるという私たちの確信をさらに強める結果となりました」と述べています。 

アラバマ大学バーミンガム校 腎臓内科のDana Rizk教授は、「フェーズ3(VISIONARY)試験の中間解析では、シベプレンリマブを投与された患者さんは、プラセボと比較して51.2%という顕著なタンパク尿の減少が示されました。この結果は、今日までにおいて最大規模であるこのIgA腎症のフェーズ3臨床試験におけるシベプレンリマブの有効性に対する私たちの確信を裏付けるものです。疾患の疫学を反映した多様な患者集団が本試験に登録されました。当臨床試験から得られた安全性データは良好であり、これまでの開発プログラムで得られたシベプレンリマブの安全性プロファイルにさらなる裏付けを与えるものです。患者さんにとって有望な進展であり、IgA腎症の免疫学的病因に対する新しい作用機序を有する治療選択肢が加わることを意味します」と述べています。

フェーズ3(VISIONARY)試験は、eGFR(推算糸球体濾過量)で示される24ヵ月間の腎機能変化を評価するために盲検化で継続されており、2026年初頭に終了する予定です。IgA腎症の治療におけるシベプレンリマブの可能性を詳しく評価するために、事前規定された解析と探索的解析が今後実施されます1

ERAにおけるシベプレンリマブに関する発表資料は、6月7日午前7時(日本時間)までに下記サイトに掲載する予定です。
https://visterrainc.com/our-research/conferences/


【フェーズ3(VISIONARY)試験について】
フェーズ3(VISIONARY)試験は、本疾患における試験として今日までにおいて最大となる約530名の成人患者さんを対象とした多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験です。標準治療(最大耐用量のACE阻害薬またはARB に、必要に応じてSGLT2阻害薬を投与)を受けている成人のIgA腎症患者さんを対象に、シベプレンリマブ400mgを4週ごとに皮下投与し、プラセボ群と比較して評価することを目的としています。この試験は、4週間ごとに400 mgのシベプレンリマブを皮下投与した場合の有効性と安全性をプラセボと比較して評価することを目的としています。主要評価項目は、ベースラインと比較したシベプレンリマブ投与9ヵ月後の24時間尿におけるuPCR(尿蛋白/クレアチニン比)です。副次評価項目は、約24ヵ月間にわたるeGFR(推算糸球体濾過量)の年間変化率です1

【シベプレンリマブ(INN:sibeprenlimab、開発コード:VIS649)について】
シベプレンリマブは、大塚製薬の子会社であるビステラ社が創製し、APRILに選択的に結合することでその活性を阻害する、開発中のモノクローナル抗体です。シベプレンリマブは、APRILを阻害することで、Gd-IgA1の産生を抑え、IgA腎症における腎障害の進行や末期腎疾患への進行を遅らせることが期待されます3,4,5,6

【IgA(免疫グロブリンA)腎症とAPRILについて】
IgA(アイ・ジー・エー)腎症は、通常は20〜40歳代の成人に比較的多く発症します。免疫複合体が腎臓に沈着し、進行性の腎機能低下を引き起こし、最終的には末期腎疾患にいたる可能性があることから、患者さんに大きな負担をもたらします7,8,9。腎機能障害の進行を抑制する各種の治療が行われているものの、この疾患の根本原因に対処する治療法には未充足の医療ニーズが存在します。
APRILは、腫瘍壊死因子(TNF:tumor necrosis factor)13番目のファミリーに属するサイトカインで、IgA腎症の発症と進行に深く関与しています。APRILは、B細胞のIgA産生細胞へのクラススイッチを促進し、IgA腎症においては腎臓で免疫複合体を形成する病原性の高いGd-IgA1の産生を誘導します5


【大塚製薬について】
大塚製薬は、一人ひとりの可能性に向き合うトータルヘルスケアカンパニーです。"Otsuka-people creating new products for better health worldwide"の企業理念のもと、未充足の医療ニーズに新たな価値を提供する医療関連事業と、科学的根拠をもった独創的な製品やサービスにより日々の健康維持・増進をサポートするニュートラシューティカルズ関連事業を通じて、人々のウェルビーイングの実現に向けて取り組んでいます。
詳細はコーポレートサイトwww.otsuka.co.jpをご覧ください。

  • 1Otsuka Pharmaceutical Development & Commercialization, Inc.Visionary Study: Phase 3 Trial of Sibeprenlimab in Immunoglobulin A Nephropathy (IgAN). Clinicaltrials.gov.
  • 2Thompson A, Carroll K, Inker LA, et al. Proteinuria Reduction as a Surrogate End Pointin Trials of IgA Nephropathy. Clin J Am Soc Nephrol. 2019;14(3):469-481.doi:10.2215/CJN.08600718
  • 3Mathur M, Barratt J, Suzuki Y, et al. Safety, Tolerability, Pharmacokinetics, and Pharmacodynamics of VIS649 (Sibeprenlimab), an APRIL-Neutralizing IgG2 Monoclonal Antibody, in Healthy Volunteers. Kidney Int Rep. 2022;7(5):993-1003.
  • 4Chang S, Li XK. The Role of Immune Modulation in Pathogenesis of IgA Nephropathy (nih.gov)
  • 5Cheung CK, Barratt J, Liew A, Zhang H, Tesar V, Lafayette R. The role of BAFF and April in IGA nephropathy: Pathogenic mechanisms and targeted therapies. Frontiers in nephrology. February 1, 2024.
  • 6Mathur M, Barratt J, Chacko B, et al. A Phase 2 Trial of Sibeprenlimab in Immunoglobulin A Nephropathy Patients. NEJM. 2023 https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2305635
  • 7Pitcher, D. Braddon, et. al Long-term outcomes in IGA nephropathy. Clinical journal of the American Society of Nephrology : CJASN. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37055195/.
  • 8Lai K. Iga nephropathy. Nature reviews. Disease primers. 2016
  • 9Cheung, Chee Kay & Boyd, JKF & Feehally, J.. (2012). Evaluation and management of IgA nephropathy. Clinical Medicine. 12. s27-s30. 10.7861/clinmedicine.12-6-s27.