大塚製薬株式会社

医療関連事業
2015年2月27日

ADPKDに対する初の治療薬「JINARC」(ジンアーク)、カナダで承認

  • 「JINARC」(海外商品名:ジンアーク、一般名:トルバプタン)は常染色体優性多発性のう胞腎(ADPKD)の治療薬としてカナダで承認され、ADPKDの患者さんにとって新たな選択肢が生まれた。トルバプタンは大塚製薬が創製し、ADPKD治療薬として2014年に日本で最初に承認
  • ADPKD患者さんを対象としたフェーズ3臨床試験において、「トルバプタン」は、プラセボと比較して腎臓の総容積の年間増加率を約半分(49%)有意に抑制し、また、腎機能の低下を30%有意に抑制した
  • ADPKDは慢性進行性の遺伝性疾患で、腎臓にのう胞ができて腎容積が大きくなり、急性や慢性の疼痛、高血圧を合併し、腎不全になる

大塚製薬株式会社(本社:東京都、代表取締役社長:樋口達夫、以下「大塚製薬」)は、子会社である大塚カナダファーマシューティカルInc.が、成人の常染色体優性多発性のう胞腎(ADPKD)の初めての治療薬として「JINARC」(海外商品名:ジンアーク、一般名:トルバプタン)の承認をカナダ保健省より取得しましたのでお知らせいたします。「JINARC」は腎のう胞が増殖・増大することを抑制し、腎機能の低下を抑制します。カナダ保健省の「JINARC」の承認は、ADPKDを対象に実施されたフェーズ3試験(TEMPO 3:4試験)の結果に基づいています。

「トルバプタン」は、大塚製薬の徳島の研究所で、研究員の26年間以上の弛まぬ努力により開発されました。バソプレッシンV2受容体を介してcAMPの産生を抑制することにより、腎のう胞の増殖・増大が抑えられることが発見され、大塚製薬は2004年から世界の専門医と共同してADPKD治療薬の開発を推し進めてきました。2014年日本で最初に「サムスカ」(製品名)がADPKD治療薬として承認され、カナダでの承認が2番目となりました。現在、欧州では承認申請中となっています。

トロントの腎臓専門医サンジェイ・パンデヤ先生は「ADPKDの患者さんの多くは腎臓ののう胞が大きくなることで生じる激しい痛みに苦しんでいます。他の臓器が影響を受けることもあり、多くの患者さんは腎不全となるので、明らかに身体全体の健康や生活の質に影響を及ぼします。この度の『JINARC』の承認は、これまで薬がないために希望の光がなかったADPKD治療にとって画期的な前進となります。のう胞の増大を抑制し、症状を改善し、この深刻な病気の進展を遅らせることで患者さんにとっての新しい治療選択肢となり得ます」と述べています。

モントリオールのマイオソンヌーヴ・ローズモント病院教育ディレクター、腎臓専門医のアライン・ボンナド先生は「ADPKDは遺伝的な病気で、末期腎不全となることもあります。『JINARC』は患者さんと医師にとって、この病気を遅らせることのできる新しい選択肢となります」と述べています。

カナダの患者団体であるPKD財団理事長ジェフ・ロバートソンは「ADPKDは生命に関わる遺伝性の病気で、これまで病気の進展に対する治療法がありませんでした。ADKPDをわずらう母と祖母がいる経験から、私たち家族はこの治療薬の誕生がADPKD患者とその家族の生き方を変えるくらいの影響があるものと思っています」と述べています。

参考資料

ADPKDについて

ADPKDは遺伝子の変異により両方の腎臓にのう胞(液体が詰まった袋)が無数にできて腎臓が何倍にも大きくなり、腎機能が徐々に低下していく遺伝性の病気です。両親のいずれかがADPKDの場合、50%の確率で子どもに遺伝します。多くの場合は30~40歳代以降に症状が現れ、血尿、腹痛・腰背部痛、腹部膨満などが見られます。また、腎機能が低下する前から高血圧を合併することが多く、脳動脈瘤や肝のう胞なども高い頻度で合併します。腎機能が低下してくると腎移植または透析が必要(透析の原因疾患のうち第4位がADPKD)となり、70歳までに半数近くの患者さんが末期腎不全に至ると言われています。根本的な治療方法は確立されておらず有効な治療薬もないため、ADPKDを正確に診断して治療を施すことができる医師も多くないと言われています。遺伝性の疾患のなかでも発症頻度が高く約4,000人に1人が患っているとされています。

「トルバプタン」およびTEMPO3:4試験について

「トルバプタン」は、大塚製薬の徳島研究所において多くの人の努力のもと26年をかけて開発した薬剤で、バソプレシンV2-受容体拮抗作用により水だけを出す利尿剤として世界20カ国・地域で使用されている経口治療薬です。一方で、この「トルバプタン」がバソプレシンV2-受容体を介したcAMP産生を抑制することによりADPKDの腎嚢胞の増殖・増大を抑制することが発見されたことで(Nature Medicine、2003)、大塚製薬はもう一つの新しい挑戦として、希少疾病であるADPKDの治療薬開発に米国メイヨー・クリニックのヴィセンテ・E・トーレス教授を中心とした世界の専門医とともに取り組み、1,400人以上のADPKD患者さんを対象に世界15カ国で国際共同フェーズ3試験(TEMPO3:4試験)を実施しました。「トルバプタン」は、プラセボと比較し腎臓の容積の増加率を約50%有意に抑制することが証明され、2012年11月にはニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌に掲載されました。