大塚製薬株式会社
新規APRIL抗体「シベプレンリマブ」
IgA腎症を対象としたフェーズ3試験結果を米国腎臓学会(ASN)で発表
- IgA腎症を対象としたフェーズ3(VISIONARY)試験において新規APRIL抗体であるシベプレンリマブ投与後12ヵ月時点の中間解析結果が、米国腎臓学会(ASN)年次総会で発表されるとともに、The New England Journal of Medicineに掲載された。
- 本剤の中間解析結果において、投与後12ヵ月時点のuPCR(尿蛋白/クレアチニン比)のベースラインからの比が、プラセボ群に比べシベプレンリマブ群で54.3%減少した。安全性はプラセボ群と同等であり、良好な忍容性が確認されている。
- タンパク尿の減少は、腎機能悪化遅延と相関する代替マーカーであり、本剤の臨床試験によって迅速な薬事承認を支持する主要なエンドポイントとして用いられている。
- シベプレンリマブは、4週ごとに自己投与が可能な皮下投与のプレフィルドシリンジ製剤で、患者さんが在宅投与できる利便性を提供。米国食品医薬品局(FDA)から優先審査指定を受けており、審査終了目標日(PDUFA date)は2025年11月28日に設定されている。
大塚製薬株式会社(本社:東京都、代表取締役社長:井上 眞、以下「大塚製薬」)は、シベプレンリマブ(一般名)のIgA腎症を対象としたフェーズ3(VISIONARY)試験における投与後12ヵ月時点の中間解析結果を、 2025年11月6日から9日まで米国テキサス州ヒューストンで開催された米国腎臓学会(ASN:American Society of Nephrology)年次総会にて発表しましたので、お知らせします。なお、本中間解析結果はThe New England Journal of Medicineにも掲載されています1。
フェーズ3試験の中間解析において、シベプレンリマブ投与群は、12ヵ月時点における24時間uPCR(尿蛋白/クレアチニン比)を56.6%(95%信頼区間[CI:Confidence Interval]:50.8%~61.7%)減少させました。一方、プラセボ投与群では、5.1%(95% CI:-6.7%~15.7%)の減少にとどまり、プラセボ調整後の24時間uPCR減少率は54.3%(95% CI:46.4%~60.9%)となりました。また、安全性プロファイルは良好であり、12ヵ月間を通じてプラセボ群と同等でした。中間解析時点で、安全性解析に含まれた被験者(n=510)において、有害事象の発生率はシベプレンリマブ群で74.1%、プラセボ群で82.1%と、両群で同程度でした。これらの有害事象の大半は軽度から中等度であり、最も頻度が高かったのは上気道感染症(14.7% vs. 13.9%)および鼻咽頭炎(12.4% vs. 10.0%)でした。
FDA申請に用いたシベプレンリマブ投与後9ヵ月時点の中間解析結果において、シベプレンリマブ投与群では、血清免疫グロブリン(IgA、IgG、IgM)、増殖誘導リガンド(APRIL)、ガラクトース欠損型IgA1(Gd-IgA1)、および血尿発生率の有意な減少が認められました。また、SGLT2阻害薬の使用有無、ベースラインの蛋白尿量や推算糸球体濾過量(eGFR)、人口統計学的特性、既往の免疫抑制療法の有無など、事前に設定されたすべてのサブグループにおいても、APRIL阻害作用による一貫した有効性と臨床的ベネフィットが確認されています。
シベプレンリマブは、IgA腎症の発症と進行において重要な役割を果たしているAPRIL(A-Proliferation-Inducing Ligand)の作用を選択的に阻害することで、糖鎖欠損IgA1(Gd-IgA1)の産生を抑制します。4週ごとに自己投与が可能な皮下投与のプレフィルドシリンジ(薬剤充てん済み注射器)製剤で、患者さんが在宅投与できる利便性を提供します。本年3月にシベプレンリマブの生物学的製剤承認申請(Biologic License Application:BLA)が米国食品医薬品局(FDA)に提出され、5月にはFDAから優先審査指定を受領し、審査終了目標日(PDUFA date)は2025年11月28日に設定されています。
フェーズ3(VISIONARY)試験は、eGFR(推算糸球体濾過量)で示される24ヵ月間の腎機能変化を評価するために盲検化で継続されており、2026年に終了する予定です。IgA腎症の治療におけるシベプレンリマブの可能性を詳しく評価するために、事前に規定された解析と探索的解析が今後実施されます。
【フェーズ3(VISIONARY)試験について】
VISIONARY試験(NCT05248646)は、約530名の成人患者さんを対象とした多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験です。標準治療(最大耐用量のACE阻害薬またはARB に、必要に応じてSGLT2阻害薬を投与)を受けている成人のIgA腎症患者さんを対象に、シベプレンリマブ400mgを4週ごとに皮下投与し、プラセボ群と比較して評価することを目的としています。この試験は、4週間ごとに400 mgのシベプレンリマブを皮下投与した場合の有効性と安全性をプラセボと比較して評価することを目的としています。主要評価項目は、ベースラインと比較したシベプレンリマブ投与9ヵ月後の24時間畜尿におけるuPCR(尿蛋白/クレアチニン比)です。主要な副次評価項目は、約24カ月間のeGFR(推算糸球体濾過量) slopeの年間変化率です2。
【シベプレンリマブ(INN:sibeprenlimab、開発コード:VIS649)について】
シベプレンリマブは、大塚製薬の子会社であるビステラ社が創製し、APRILに選択的に結合することでその活性を阻害する、開発中のモノクローナル抗体です。シベプレンリマブは、APRILを阻害することで、Gd-IgA1の産生を抑え、IgA腎症における腎障害の進行や末期腎不全への進行を遅らせることが期待されます3,4,5,6。
【IgA(免疫グロブリンA)腎症とAPRILについて】
IgA(アイ・ジー・エー)腎症は、通常は20〜40歳代の成人に比較的多く発症します。免疫複合体が腎臓に沈着し、進行性の腎機能低下を引き起こし、最終的には末期腎不全にいたる可能性があることから、患者さんに大きな負担をもたらします。腎機能障害の進行を抑制する各種の治療が行われているものの、この疾患の根本原因に対処する治療法には未充足の医療ニーズが存在します。
APRILは、腫瘍壊死因子(TNF:tumor necrosis factor)13番目のファミリーに属するサイトカインで、IgA腎症の発症と進行に深く関与しています。APRILは、B細胞のIgA産生細胞へのクラススイッチを促進し、IgA腎症においては腎臓で免疫複合体を形成する病原性の高いGd-IgA1の産生を誘導します7,8,9,10。
大塚製薬について
大塚製薬は、一人ひとりの可能性に向き合うトータルヘルスケアカンパニーです。"Otsuka-people creating new products for better health worldwide"の企業理念のもと、未充足の医療ニーズに新たな価値を提供する医療関連事業と、科学的根拠をもった独創的な製品やサービスにより日々の健康維持・増進をサポートするニュートラシューティカルズ関連事業を通じて、人々のウェルビーイングの実現に向けて取り組んでいます。 詳細はコーポレートサイトwww.otsuka.co.jp をご覧ください。
- Sibeprenlimab in IgA Nephropathy -- Interim Analysis of a Phase 3 Trial https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2512133?query=featured_home
- Otsuka Pharmaceutical Development & Commercialization, Inc. Visionary Study: Phase 3 Trial of Sibeprenlimab in Immunoglobulin A Nephropathy (IgAN). Clinicaltrials.gov. https://clinicaltrials.gov/study/NCT05248646?a=7
- Thompson A, Carroll K, Inker LA, et al. Proteinuria Reduction as a Surrogate End Point in Trials of IgA Nephropathy. Clin J Am Soc Nephrol. 2019;14(3):469-481.doi:10.2215/CJN.08600718
- Mathur M, Barratt J, Suzuki Y, et al. Safety, Tolerability, Pharmacokinetics, and Pharmacodynamics of VIS649 (Sibeprenlimab), an APRIL-Neutralizing IgG2 Monoclonal Antibody, in Healthy Volunteers. Kidney Int Rep. 2022;7(5):993-1003.
- Chang S, Li XK. The Role of Immune Modulation in Pathogenesis of IgA Nephropathy (nih.gov)
- Cheung CK, Barratt J, Liew A, Zhang H, Tesar V, Lafayette R. The role of BAFF and April in IGA nephropathy: Pathogenic mechanisms and targeted therapies. Frontiers in nephrology. February 1, 2024.
- Mathur M, Barratt J, Chacko B, et al. A Phase 2 Trial of Sibeprenlimab in Immunoglobulin A Nephropathy Patients. NEJM. 2023 https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2305635
- Pitcher, D. Braddon, et. al Long-term outcomes in IGA nephropathy. Clinical journal of the American Society of Nephrology: CJASN. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37055195/.
- Lai K. Iga nephropathy. Nature reviews. Disease primers. 2016
- Cheung, Chee Kay & Boyd, JKF & Feehally, J. (2012). Evaluation and management of IgA nephropathy. Clinical Medicine. 12. s27-s30. 10.7861/clinmedicine.12-6-s27.