大塚製薬株式会社
Transcend Therapeutics, Inc.

医療関連事業
2026年3月27日

大塚製薬のTranscend Therapeutics社買収について

大塚製薬株式会社(本社:東京都、代表取締役社長:井上 眞、以下「大塚製薬」)とTranscend Therapeutics, Inc.(本社:米国ニューヨーク州、CEO:Blake Mandell、以下「トランセンド社」)は3月27日、大塚製薬が、100%子会社である大塚アメリカInc.を通じてトランセンド社を完全子会社化(以下「本買収」)することについて合意し、契約を締結しましたのでお知らせします。本買収は、今後必要な手続き等を経て、2026年度第2四半期中に完了する予定です。契約に基づき、大塚製薬はトランセンド社株主に対し、本買収の対価として買収完了時に700百万米ドルを支払うとともに、開発品の売上に応じた条件付対価(販売マイルストン)として最大525百万米ドルを支払う可能性があります。

トランセンド社は2021年に設立された、精神・神経疾患に対する迅速作用型治療薬の開発を進めるバイオテクノロジー企業です。同社が開発する「TSND-201」は、メチロン(methylone)を有効成分とする迅速作用型のニューロプラストゲン(脳内ニューロンの神経可塑性を誘導する化合物)で、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などを対象とした治療薬候補として開発が進められています。米国では、PTSD の年間有病者数が 1,300 万人以上に上ると推計されていますが1、この約25年間、新たな治療薬は承認されておらず、依然として大きなアンメットニーズが存在しています。

近年の研究では、脳の「神経可塑性(neuroplasticity)」の変化がPTSD の発症や症状の持続に深く関わっていることが明らかになっています。神経可塑性とは、脳の神経回路を再編成する能力のことで、記憶の形成や感情の調整を支える重要な仕組みです。PTSD では、恐怖反応に関連する神経回路に変化が生じ、安全であることを再学習する力(「恐怖を上書き」する力)が損なわれており、神経可塑性を回復あるいは促進する治療アプローチへの関心が高まっています2

メチロンを有効成分とするTSND-201 は、脳内モノアミン(セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミン)のトランスポーターなどに作用します。モノアミンの放出を促進することで、シナプス間隙のモノアミン濃度を高め、神経可塑性を迅速かつ持続的に高める作用が示されています3,4。なお、TSND-201は幻覚作用に関わるセロトニン5-HT2A受容体には作用せず、非幻覚性と考えられます3,5。トランセンド社は、TSND-201の有効性と安全性・忍容性のバランスをさらに高めるため、新規化学物質に分類されるプロドラッグの研究開発にも取り組んでいます。既に開発候補化合物を選定しており、米国食品医薬品局(FDA)に対するIND(新薬臨床試験開始届)申請に向け、現在非臨床試験を実施しています。

TSND-201 はPTSD を有する成人を対象としたフェーズ2試験「IMPACT-1」において良好な成績を示し、その結果が2026年2月に「JAMA Psychiatry」に掲載されています5。迅速な作用発現と高い効果が認められたことから、TSND-201は2025年7月にFDAよりブレークスルーセラピー指定を取得しました。トランセンド社は2025年9月にFDAと協議し、TSND-201の開発を加速する計画およびフェーズ3試験のデザインについて協議を行いました。現在、米国においてフェーズ3試験の患者登録が進行中です。

大塚製薬 代表取締役社長 井上眞は、「このたび、トランセンド社を新たに当社グループに迎えることを大変うれしく思います。PTSDの治療選択肢は依然として限られている中、TSND‑201は精神科治療におけるパラダイムシフトになり得るものとして大きな期待が寄せられています。精神・神経領域に長年取り組んできた当社の強みと、トランセンド社の革新的アプローチを掛け合わせることで、TSND‑201を新たな治療選択肢として患者さんにお届けできるよう、規制当局と緊密に連携しながら開発を進めてまいります」と述べています。

トランセンド社のCEO兼共同創業者のBlake Mandellは、「迅速に作用し、患者さんがアクセスしやすいPTSDに対する新規治療を届けたいという思いから、私たちはトランセンド社を創業しました。精神・神経領域において長年リーダーシップを発揮してきた大塚製薬とは、当社が創業時から掲げてきた"患者さんへの貢献"という理念を深く共有しています。大塚製薬とともにTSND-201 の開発を進め、この共通の使命を実現していけることを誇りに思います」と述べています。

大塚製薬は 1970 年代より精神・神経領域に注力し、統合失調症、双極性障害、うつ病、PTSDなど、依然として治療選択肢が十分でない疾患に対して新たな治療手段の提供に取り組んできました。近年は、精神疾患における次世代治療薬の創出を目指し、革新的なセロトニン5-HT2Aアゴニスト創製技術を有する Mindset Pharma, Inc. を買収するなど、グローバルな提携・協業ネットワークを広げつつ、将来の治療オプション拡充に向けた連携を積極的に深化させています。

今回、TSND-201という大塚製薬が既に保有している薬剤や開発品とは作用機序の異なる新規開発品を獲得することで、精神・神経領域におけるポートフォリオ拡大がさらに加速します。特に米国においてはPTSDの有病者数が非常に多いにも関わらず、治療選択肢は心理療法と抗うつ薬に限られており、効果と安全性が科学的に裏付けられた新たな治療選択肢が求められています。大塚製薬はトランセンド社をグループに迎えることで、精神・神経領域におけるグローバルリーダーとして、PTSD を含む次世代治療薬の開発を加速し、治療選択肢のさらなる拡充を目指します。

フェーズ2試験「IMPACT-1」について

成人のPTSD患者を対象にTSND-201の有効性、安全性、忍容性を評価する無作為化、二重盲検、プラセボ対照試験です。米国、英国、アイルランドの計16施設において、CAPS-5(Clinician-Administered PTSD Scale for DSM-5)総重症度スコア35以上を有する重度のPTSD患者65名(平均年齢:43.7歳、男性26名:女性39名)が参加し、TSND-201またはプラセボを週1回、計4回経口投与した後、その後6週間追跡しました。IMPACT-1試験において、TSND-201群はプラセボ群と比較して、CAPS-5総重症度スコアにおいて、ベースラインから64日目までに速効性かつ統計学的に有意な改善を示し、主要評価項目を達成しました。なお、TSND-201群はプラセボ群と比較して、10 日目以降のCAPS-5総スコアの改善が一貫して大きいことが示されています。

TSND-201は概ね良好な忍容性を示しました。最も多く報告された治療に起因する有害事象は、頭痛、食欲低下、悪心、めまい、血圧上昇、口渇、不眠などで、これらは通常一過性であり、投与当日に発現し、1日以内に消失しました5

PTSDについて

PTSDは、生命を脅かす出来事や強いトラウマとなる体験を経験、あるいは目撃した後に発症する重篤な精神疾患です。主な症状には、フラッシュバック、悪夢、強い不安、出来事に関する抑えられない思考などが含まれます。米国では、PTSD の年間有病者数が 1,300 万人以上に上ると推計されており、100人に6人近くが一生のうちにPTSDと診断されるといわれています1

PTSD の治療薬として FDA に承認されているのはセルトラリンとパロキセチンの2剤のみであり、PTSD に対する新たな治療選択肢が求められています。

TSND-201について

TSND-201 は、トランセンド社が開発した、メチロン(methylone)を有効成分とする迅速作用型のニューロプラストゲンです。TSND-201 の主たる薬理作用は、モノアミントランスポーターを作用部位とし、セロトニン5-HT2A受容体には作用しない(=非幻覚性と考えられる)ことが確認されています。 トランセンド社は、本剤をPTSD をはじめとする精神・神経疾患に対する迅速かつ持続的な治療薬として開発を進めています。

Transcend Therapeutics社について

Transcend Therapeutics(トランセンド社)は 2021 年に設立された、臨床開発段階にある神経科学領域の企業で、精神・神経疾患に対する迅速作用型治療薬の開発を進めています。既存の精神科治療薬が十分に効果を示さなかった数百万の患者に、新たな治療薬を届けることを使命としています。

詳細は www.transcendtherapeutics.comをご覧ください。

大塚製薬株式会社について

大塚製薬は、一人ひとりの可能性に向き合うトータルヘルスケアカンパニーです。"Otsuka-people creating new products for better health worldwide"の企業理念のもと、未充足の医療ニーズに新たな価値を提供する医療関連事業と、科学的根拠をもった独創的な製品やサービスにより日々の健康維持・増進をサポートするニュートラシューティカルズ関連事業を通じて、人々のウェルビーイングの実現に向けて取り組んでいます。 詳細はコーポレートサイト www.otsuka.co.jp をご覧ください。

  • Reference
  • 1. U.S. Department of Veteran Affairs. PTSD: National Center for PTSD. https://www.ptsd.va.gov/understand/common/common_adults.asp
  • 2. Ressler et al., 2022, "Post-traumatic stress disorder: clinical and translational neuroscience from cells to circuits." Nat. Rev. Neurol. doi: 10.1038/s41582-022-00635-8
  • 3. Warner-Schmidt et al., 2024, "Methylone is a rapid-acting neuroplastogen with less off-target activity than MDMA." Front. Neurosci. doi:10.3389/fnins.2024.1353131
  • 4. Warner-Schmidt et al., 2025, "Methylone promotes neurite outgrowth and has long-lasting effects on fear extinction learning." Neuropsychopharmacology. doi:10.1038/s41386-025-02206-z
  • 5, Jones et al., 2026, "Efficacy and safety of the neuroplastogen TSND-201 for the treatment of PTSD: A randomized clinical trial." JAMA Psychiatry. doi:10.1001/jamapsychiatry.2025.4625