遺伝子からわかる血液がんのこと

遺伝子の異常を知る

遺伝子や染色体の異常とタンパク質

遺伝子や染色体に異常が起こることで、つくられるタンパク質の種類や量が変わることがあります。

遺伝子変異

塩基配列が変わると遺伝子に記された設計図の情報が変わることとなり、その塩基配列によっては異常なタンパク質がつくられたり、正常なタンパク質がつくられなくなったりして、病気などにつながることがあります。このように、遺伝子に起こる異常(遺伝子異常)の中でも塩基配列の変化に関係するものを遺伝子変異といいます。
遺伝子変異には、図のように塩基が別の塩基に入れ替わる(置換)に加え、他の塩基が塩基配列の間に付け加えられる(挿入)、塩基が抜ける(欠失)などがあります。

遺伝子変異(置換)とタンパク質

もとの塩基配列とつくられるタンパク質 A-T-G-C……の塩基配列で正常なタンパク質がつくられる 置換が起こった場合 AがTに置換されることで、正常なタンパク質がつくられなくなる

染色体の異常

遺伝子の数は常に一定となるように調整されていますが、調整がうまくいかずに何らかの原因で染色体に含まれる特定の遺伝子の数が増えてしまうことがあります(増幅)。この場合、タンパク質自体は正常でも、つくられるタンパク質の量が異常に増加することになります。また、染色体の一部が他の染色体と入れ替わり(転座)、遺伝子が結合することで、新しい異常な遺伝子(融合遺伝子)ができることがあります。融合遺伝子からは、本来必要だったタンパク質とは異なる異常なタンパク質がつくられます。

染色体の異常とタンパク質

正常 遺伝子Aからタンパク質Aが作られる 増幅が起こった場合 染色体に含まれる遺伝子Aの数が多い タンパク質Aが必要以上につくられる 転座が起こった場合 染色体の一部が他の染色体と入れ替わり、融合遺伝子がつくられる 異常なタンパク質がつくられる

その他、染色体の異常としては、染色体の一部分が抜けてしまう(欠失)、染色体の一部分が逆向きになってしまう(逆位)などがあります。

遺伝子異常の原因とDNAの修復

遺伝子異常の原因には、主に遺伝要因(内的要因)と環境要因(外的要因)があります。遺伝要因は母親と父親から受け継いだ遺伝情報に基づく原因で、環境要因はたばこや紫外線など、身の回りの環境に基づく原因です。また、加齢によっても遺伝子異常を持つ細胞が増えることが知られています。

遺伝子異常の原因

遺伝要因 両親から受け継いだ遺伝情報に基づく要因 環境要因 たばこ 紫外線 ウイルス 放射線など

このように、紫外線などの日々のさまざまな刺激によって、細胞内のDNAは傷ついてしまいます。損傷を放っておくと遺伝子の塩基配列が変化してしまうため、ヒトの体にはDNAを修復する仕組みが備わっています。一方で、この仕組みがあっても場合によっては遺伝子異常が残ることや、修復する仕組み自体にも異常が起こることがわかっています。このような場合、DNAは修復されず遺伝子異常が蓄積されていくことになります。

COLUMN
ヒトゲノムの解析と医療の未来

ヒトゲノムの解析により、ゲノムは生物の種類だけでなく、人それぞれで異なることがわかりました。こうした違いは遺伝子多型と呼ばれ、個人の体質の違いにつながっています。

遺伝子多型には病気に関係するものもあり、ゲノムの研究により新しい診断方法や治療薬などの研究が進んでいます。
一人分のゲノムの内容全体の解析に、かつては12年もの歳月がかかりましたが、現在は2日程度で行えるなど、近年の技術は目覚ましい進歩を遂げました。ゲノム情報の活用により、これまで以上にそれぞれの患者さんに適した医療の実現が期待されています。