遺伝子からわかる血液がんのこと

血液がんの治療

白血病や悪性リンパ腫などの血液がんは、血液やリンパ液の流れに乗ってがん細胞が全身を循環するため、胃がんなどの固形がんと違って、手術によるがん細胞の除去ができません。逆に、血液がんの細胞は薬物療法の効果が出やすいという特徴が一般的にあります。そのため、治療は薬物療法が中心となります。がんの種類や患者さんの状況によっては、薬物療法に加えて放射線療法や造血幹細胞移植も選択されます。
ここでは、薬物療法、造血幹細胞移植、放射線療法の概要や、病気の種類(白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫)別の治療法についてみていきます。

血液がんの主な治療

藥物療法 造血幹細胞移植 放射線療法

薬物療法、造血幹細胞移植、放射線療法

血液がんの薬物療法、造血幹細胞移植、放射線療法について説明します。

薬物療法

薬物療法でよく用いられるお薬には、「化学療法剤(細胞障害性抗がん薬)」、「分子標的薬」があります。また、近年は私たちの体に備わっている免疫に焦点を当てた「がん免疫療法」が注目されています。

- 化学療法剤と分子標的薬について

化学療法剤はDNAの合成や細胞分裂の過程に作用してがん細胞を攻撃するお薬です。そのため、このお薬はがん細胞だけでなく正常な細胞も攻撃してしまいます。一方、分子標的薬はがん細胞に特徴的なタンパク質を標的としてがん細胞を攻撃するお薬です。分子標的薬は化学療法剤と比べて正常な細胞に与える影響が小さいため、副作用が少ないことが知られています。

化学療法剤と分子標的薬の違い

化学療法剤 がん細胞だけでなく正常な細胞も攻撃する 分子標的藥 特定のがん細胞を攻撃し、正常な細胞への影響が小さい

- がん免疫療法について

ヒトの体には、ウイルスやがん細胞などの異物を攻撃する免疫という仕組みが備わっています。一方で、がん細胞は免疫システムをだましたり、弱めたりすることで、攻撃されずに増殖していきます。この免疫システムを活性化して、がん細胞を攻撃できるようにする治療が、がん免疫療法です。血液がんでは主に「抗体薬」、「二重特異性抗体薬」、「細胞移入療法(CAR-T療法)」、「免疫チェックポイント阻害薬」が使われています。
それぞれのお薬の働きは以下の通りです。

抗体薬

お薬ががん細胞の表面マーカーに結合して、周りの免疫細胞(NK細胞など)を活性化することでがん細胞を攻撃します。また、お薬が結合することで起こる反応により、がん細胞を破壊する効果も期待されます。

二重特異性抗体薬

お薬ががん細胞とT細胞の表面マーカーに結合して二つをつなげることで、T細胞ががん細胞を攻撃します。

細胞移入療法(CAR-T療法)

患者さんの血液から取り出したT細胞にがん細胞の目印を見分ける遺伝子を人工的に組み込んだ、「CAR-T細胞」を用いる治療です。CAR-T細胞ががん細胞に結合し、がん細胞を攻撃します。

免疫チェックポイント阻害薬

がん細胞はT細胞の表面にある免疫チェックポイント分子と結合することでT細胞の働きを抑制し、攻撃されずに増殖することが知られています。
免疫チェックポイント阻害薬は、この免疫チェックポイント分子とがん細胞の結合を阻害することで、T細胞の働きを回復させてがん細胞を攻撃できるようにします。

造血幹細胞移植

造血幹細胞移植は、健康な造血幹細胞を移植し、正常な血液の機能を取り戻すことを目的として行う治療です。
造血幹細胞移植にはいくつかの種類があります。まず、移植に使用する細胞の持ち主により、患者さん以外の細胞を移植する同種移植と、あらかじめ保存しておいた患者さん自身の正常な細胞を移植する自家移植があります。また、移植に使用する造血幹細胞をどこから採取したかによって、骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植などに分かれます。

造血幹細胞移植の種類

移植に使用する造血幹細胞の持ち主による分類 同種移植 患者さん以外の提供者(ドナー)から提供された造血幹細胞を移植する 自家移植 あらかじめ保存しておいた患者さん自身の正常な造血幹細胞を移植する どこから造血幹細胞を採取したかによる分類 骨髄移植 骨髄に含まれる造血幹細胞を移植する 末梢血幹細胞移植 血管の中を流れる血液(末梢血)に含まれる造血幹細胞を培養して移植する 臍帯血移植 赤ちゃんが生まれた後の胎盤や臍帯に残った血(臍帯血)に含まれる造血幹細胞を移植する
移植に使用する造血幹細胞の持ち主による分類 同種移植 患者さん以外の提供者(ドナー)から提供された造血幹細胞を移植する 自家移植 あらかじめ保存しておいた患者さん自身の正常な造血幹細胞を移植する どこから造血幹細胞を採取したかによる分類 骨髄移植 骨髄に含まれる造血幹細胞を移植する 末梢血幹細胞移植 血管の中を流れる血液(末梢血)に含まれる造血幹細胞を培養して移植する 臍帯血移植 赤ちゃんが生まれた後の胎盤や臍帯に残った血(臍帯血)に含まれる造血幹細胞を移植する

移植を行う際には、前処置として大量薬物療法や全身放射線照射を行うことがあり、移植の種類によって大量薬物療法や全身放射線照射の目的は異なります。同種移植の場合は、血液がんに対する治療効果と移植の拒絶反応の予防効果の両面を考えて大量薬物療法や放射線照射が用いられます。一方、自家移植の場合は、血液がんに対する治療効果を狙って大量薬物療法が用いられます。

放射線療法

放射線は高速で動く、目には見えない小さな粒や高いエネルギーをもつ電磁波のことで、自然界にも存在しています。放射線療法は放射線を人工的につくり出して治療に利用しており、血液がんでは薬物療法と併用で用いられることの多い治療です。

放射線療法の仕組み

放射線によってがん細胞のDNAを壊し、がんを治療する

白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫の治療

白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫の治療について詳しく紹介しています。