ケーススタディから学ぶ
熱中症対策と対処法
スポーツ中や職場など、熱中症に注意が必要なシチュエーションと、その対策と対処法についてケーススタディ形式で紹介します。
スポーツ時の熱中症は、10代で多くみられます。部活動での熱中症死亡事故の発生傾向を見ると野球で突出しており、部活動以外では登山中に多く発生しています。
記録的な猛暑となった2010年は、熱中症による死亡事故が平年より大幅に増加しました。
熱中症が起こるのは、炎天下での運動や作業中だけではありません。室内で発生する熱中症も近年増加しています。
スポーツ時の熱中症
事例
A君は野球部に所属する高校2年生の男子。試験休みに入り、野球合宿に参加しました。合宿初日は最高気温35℃の炎天下での練習となりました。午前中で練習が終わったため、5km離れた宿舎へ水分補給をしつつジョギングで戻りました。宿舎到着後に会話の様子に異常がみられたため部屋に運ばれ休んでいましたが、呼吸が苦しそうになったため、救急車で病院に搬送されました。
「熱中症予防のための運動指針」の中で、気温が35℃を超えた日や、気温がさほど高くなくても湿度が高い日の運動は原則中止とされています。暑さの中で運動するときは定期的に休憩し、こまめに水分補給を行わないと、熱中症を引き起こしてしまいます。A君は炎天下で練習やジョギングをしており、さらに試験を終えたばかりで暑さに身体が慣れていなかったことなどが原因になっていると考えられます。
学校管理下の熱中症
職場で起こる熱中症
事例
Bさんは、37歳の男性、建設会社に勤めています。朝礼時に健康管理シートで自分の体調をチェックしています。ある蒸し暑い日に、風通しが悪い場所で足場の組立作業に取りかかりました。休憩所には日除けが設置され、氷、イオン飲料、梅干しなどが備えられていましたが、身体を冷やす設備がありませんでした。朝10時頃、右足にしびれを感じ、けいれんを起こしましたが、水を2杯飲み、15分程休むと回復したので、すぐ作業に戻りました。昼食時に気分が悪くなり、歩行もできなくなったため、直ちに救急車で搬送されました。
健康管理をしていても、作業中の管理が十分でなかった例です。作業時間が長時間にわたり、十分な休息がとれていませんでした。また、休息場所が高温で風がなく、休憩中は体温を下げることができませんでした。
身体活動強度の高い作業では、汗とともに塩分(ナトリウム)が身体から失われるため、水分とともに塩分(ナトリウム)を補う必要がありますが、Bさんは水しか飲んでいませんでした。再発防止のために、事業所内での熱中症予防対策の教育が必要です。
過去の熱中症死亡例について職業別に見ると、最も多いのが建設業で、続いて製造業でした。発症時期は7月から8月の高温多湿の午後に多くみられます。
※死傷者数:休業4日以上の業務上疾病者の数
出典:厚生労働省「令和4年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況」
室内で起こる熱中症
事例
Cさん(70歳、男性)は、最近風邪をひいて体調を崩したため、散歩を休んでいます。食欲もあまりありません。水分不足にならないように普段からお茶を飲み、夕食時にはビールを1杯飲むようにしています。2階の寝室に入ると、蒸し暑く熱のこもった感じがしたのですが、節電中なので冷房を入れませんでした。寝る前にのどが渇いたのですが、トイレに起きるのが気になるため水を少し飲んだだけで横になってしまいました。夜中に吐き気で目を覚まし、家族によって救急車で搬送されました。点滴を受けて脱水状態から回復し、しばらく入院した後、無事に退院できました。
Cさんには熱中症を発症させる要因がたくさんありました。体調を崩していて体力がない、食事をしていないため食事からの水分摂取も少ない、お茶とアルコールには利尿作用があり水分補給にはなっていない、暑くても我慢して冷房を入れない、トイレを気にして水分を控えているなど、いずれも熱中症の引き金になる事象でした。