ノロウイルス
ノロウイルスとは
小型で球形、食中毒の原因となるウイルスです。遺伝子の型により5 つのグループに分かれており、ヒトに感染するのはグループIとIIのノロウイルスです。感染力はとても強く、10個~100個のウイルス粒子で感染し、ヒトの腸の細胞内で増殖します。アメリカのオハイオ州ノーウォークの町の小学校で急性胃腸炎患者が集団発生し、その原因がウイルスであることがわかりました。その当時は町の名にちなんでノーウォークウイルスと呼ばれていましたが、2002年の国際ウイルス学会で「ノロウイルス」と正式に命名されました。一般的には、冬に流行しやすいと考えられています。
感染経路
経口感染:ノロウイルスに汚染されたカキなどの二枚貝を、生で、あるいはよく加熱せずに食べた場合に感染することは有名です。また、調理者や配膳者が感染していて、ノロウイルスに汚染された手指で食材に触れ、その食材を食べることでも感染します。
接触感染:感染者の便や嘔吐物に直接触れたり、感染者が排便の際に触れたトイレのドアノブなどを介し、体内に入ってしまうことで感染することもあります。
飛沫感染:感染者の嘔吐物が床に飛散した際などに、ノロウイルスを吸い込むことで感染します。
エアロゾル感染:感染者の便や嘔吐物が乾燥すると、付着した埃とともに空気中を漂います。これを吸いこんだり、体に付着して最終的に体内へノロウイルスが侵入することで感染します。
- ※ノロウイルスの感染力は、非常に強く、ほんのわずかな接触でも感染してしまう可能性があります。また、手指消毒用アルコールでは効果が低いため、嘔吐物、便の処理をする際には、塩素系の消毒剤や家庭用漂白剤使用するなど注意が必要です。
潜伏期・感染可能期間
感染してから発症するまでの潜伏期間は約1~2日間です。ウイルスは感染後1週間、長い時は1か月程度ふん便中に排出されますので注意が必要です。
症状
主な症状は嘔吐・下痢・吐き気・腹痛で、嘔吐や下痢は1日数回、ひどい時は1日10回以上にも及びます。発熱や悪寒を伴うこともありますが、発熱してもそれ程高熱にはなりません。3~4日で症状は治まりますが、脱水症状などの合併症により症状が長引く場合もあります。抵抗力が落ちている乳幼児や高齢者では重症化する場合があります。
検査方法
これまでは主に検査機関等で感染者の便、嘔吐物を調べてノロウイルスの粒子、遺伝子、蛋白を検出する方法が行われてきましたが、最近の臨床現場では、便を検体として使用する抗原定性検査が多く用いられ、15分程度で結果がわかります。(この検査は外来受診の場合、3歳未満の子どもや65歳以上の方など、保険診療の対象となるには条件があります)
治療方法
ノロウイルスに対する抗ウイルス薬はありませんので対症療法になります。
脱水症状を防ぐために十分な水分補給を行い、栄養を摂りながら安静を保ちます。脱水状態になってしまったら、経口補水液による脱水状態の改善が有用です。脱水状態の対処法は医師に相談しましょう。
Q&A
ノロウイルスに感染してできる免疫は、6か月から2年程度と考えられています。また、遺伝子タイプの違うものが複数種類あるので、一度感染して免疫ができても、別の遺伝子タイプには免疫がありませんので、何度も感染してしまうことになります。
症状がなくなっても、長い方は1か月ほど、ふん便中にウイルスが排出され、排便後の手洗いが不十分であったりすると手を介しての接触感染の恐れがありますので、注意が必要です。
一般にウイルスは熱に弱く、加熱処理すると感染力が失われます。食品は中心部までしっかり加熱することが大事です。厚生労働省では「中心温度が85℃以上・1分以上」の加熱調理を推奨しています。また、調理器具、食器などは熱湯処理などして消毒し、調理器具から食品への二次汚染を防ぐことです。調理従事者は調理前や調理中しっかりと手洗いをし、また、下痢などの症状がある場合は調理作業に携わらないことが大切です。
洗剤などで十分に洗浄した後、熱湯消毒をするか、塩素濃度200ppmの次亜塩素酸ナトリウム*で浸すようにふき、その後十分に水洗します。感染者が使用した食器は厨房に下げる前、できれば、食後に水洗して、すぐに煮沸消毒するか、塩素系漂白剤に十分に浸して消毒します。
- *200ppmの次亜塩素酸ナトリウムの作り方:
5リットルの水に市販の塩素系漂白剤キャップ1杯を加えます。キャップ1杯は約20mLです。
注)なお、市販の塩素系漂白剤を使用する際には、製品の「使用方法」、「使用上の注意」等をよく読み、取扱いに注意してください。
処理の際は、マスク・手袋・使い捨てガウン(エプロン)を必ず着用します。まず便や嘔吐物を静かにティッシュペーパーなどを十分重ねておおい、塩素系漂白剤を薄めずにかけて15~30分おきます。それから、ビニール袋に包み込んで密封して廃棄します。そのあと200ppmの次亜塩素酸ナトリウムでふいて、さらに十分に水でふきます。脱色やサビが心配な部分は、市販の消毒用アルコール(濃度約70~80%)か熱湯で、3回ないし4回ふきます。塩素ガスが残留する場合がありますので空気の流れに注意しながら十分に換気を行います。